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ソウルメイトは同じ奴を許せないか
場所は某会社事務所。
時は昼休み。
「ねえ、ソウルメイト朱音」
「なぁに、ソウルメイト邪音都」
二人はとある会社に勤める同期のOLである。名前に音が入ってるね、という新入社員時代の微笑ましい会話から、屋上の給水塔の下でソウルメイトの契りを交わすに至った稀有な間柄である。
ちなみに二人とも生粋の日本人だ。
フルネームはそれぞれ、勘解由小路朱音、鈴木邪音都という。
もちろんこの話には何の関係もない。
「私さ、すっごく許せない奴がいんの」
ちょっと蓮っ葉な朱音は、長いブラウンの髪を指先でくるくると弄りながらそう言った。
「ああ、実は私もなのよ邪音都」
美しい黒髪を部っとい三つ編みにして垂らしている邪音都は頷きながらそう言った。
「マジで? 嬉しいー。邪音都とソウルメイトで良かったー」
「ええ、ほんとにそうよね」
「それじゃ、お互いの許せない奴の話しよー」
「ええ、そうね」
朱音は手近なイスを引っ張りよせて、邪音都の傍にどっかと腰を下ろした。
そして、いよいよ口火を切るのも朱音だった。
「大して人の役にも立たないくせにさぁ、こっちに被害だけ出してくんのよ」
「ええ、そうね」
「え、邪音都の許せない奴もそうなの?」
「そうよ。しかもね、地味で目立たない様にしてるのよ」
「あー、そうそう。そうなんだよねー。私は皆と一緒で普通のやつですーってね」
「で、こっちが油断していると、酷い目に遭わせてくれるのよね……。許せないわ」
「大体アイツってさ、別のとこから来た奴じゃん?」
「そうなのよねぇ。それなのに、すっかりジモティー感出すのよね……」
「あー、思い出しただけでムカつく。なんか痒いし、アイツアレルギーかもしんない」
「私もよ。目が痒いし鼻もムズムズするし……」
「いなくなってくんねーかなー」
「ほんとよねぇ」
二人同時に溜息。
「でも、安心して朱音。もうすっかり目をつけられているのよ。要注意のリストに入ってるの」
「マジで? それどこ情報?」
邪音都の言葉に朱音の目がパッと輝いた。
「ネット」
「ネットこえー。マジやべーね、ネット」
「何でも出てきちゃうのよね」
「てかさ、さっきから思ってたんだけど。私達同じ奴にムカついてない?」
「私もそう思った」
「ソウルメイトだねー」
「ソウルメイトよねぇ」
「邪音都。同時に言っちゃおうよ、そいつの名前」
「良いわよ朱音。じゃあ……いっせーのーで!!」
「営業の山岡」
「ブタクサ」
このすれ違いは、お互いの心に疑問の種を植え付けた。
やがて種は芽吹き、ケンカの花を咲かせるに至る。
可愛さ余って何とやら。
ソウルメイトから一転、醜くいがみ合うまでにこじれた二人を見て、社内では一時的に不協和音という言葉が流行ったとか何とか。
実にどうでもいい話である。
ブタクサは要注意外来生物。
この無益極まりない話の中にあって、この事はとても重要な事実である。
花粉症でお困りの皆様、嫌いだろうから遠慮なく駆除してやってください。
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