七色

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七色

サー ピチャン… (冷たい…) 前髪から落ちる雨粒が鼻先に当たり、冷えた心を更に冷たくさせていく。 『ごめん、俺…』 これ以上の言葉を聞く前に私は、彼の前から逃げ出していた。 一目惚れして、居ても立ってもいられなくて今日、思いきって私の想いを告げた。 けれど、彼の態度からすぐに無理だったのだと悟った。 突然の告白に戸惑い、目を泳がせ、困ったように口を開いたのが合図だった。 聞かなかったからと言って、無かったことになる訳ではないと知っている。 だけど、聞きたくなかった。 「待って!!」 「!」 後ろから掛けられた声は、紛れもなく彼の声だった。 けど、振り返ることは出来なかった。 「ねえ、さっきのって告白…、だよね?」 「………」 「俺、告白されるの初めてで、その…なんて答えればいいか分からないんだけど…」 「…答えなくていい…」 「え…」 「無理なの、わかってるから…」 言ってて泣けてきた。 それでも振り返らずにいると、背後に人が近付く気配がした。 同時に頭上で何かが動き、顔を上げるとそこには虹が描かれた傘があった。 振り返るとそこには、傘を持って、真剣に私を見つめる彼が立っていた。 「無理、じゃないよ。告白嬉しかった…」 「っ…けど、ごめんって…」 「それは、告白されるの初めてで…、なんて答えればいいのかわからなかったから…」 彼の言葉に、私の心に日が射し始めた。 「それって…」 「告白の返事…、お願いします」 言いながら、頭を下げた彼。 さっきまでとはうって変わり、私の心は暖かくなっていた。 だから、小さな声で同じ言葉を返したのだった。 「…こちらこそ、お願いします」 気付けば、傘の向こうにも虹がかかっていた。 終
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