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その後は、お互いの帰路についたが、逐一連絡はとりつつ、お互い協力してこれから闘っていくことになった。
ふと思ったのは、いつ以来だろうか、妹や母親以外の女性と携帯端末を用いて連絡を取り合ったのは……。
それを思い出そうとしたが、去年の体育際でリレーの順番を変わって欲しいと業務的な連絡を受けたのが最後だと思われる。
その時の返事も「うん、いいよ!」と、とても簡単に済ませており、それ以外の出来事は無いのか考えたが、唐突にむなしくなってきたので、考えるのを中断した。
誰も待っていない家に帰るなり、炊飯器にお米を研いでスイッチを押すと、今度はお風呂にお湯を入れる。
本当は、俺一人ならばシャワーの方が安上がりなのだが、暖かくなった時期は体も冷えずに湯冷めの心配もない。
だけど、この時期にシャワーだけとなると、全然体が温まらず、風邪をひいたりする可能性があるので、湯船に浸かるようにしている。
親には少しだけ申し訳ないと思いつつも、一人だけの入浴が特別嫌いでもなかった。
ご飯が炊けるまで約一時間あり、最初の三十分はゆっくりと着替えたり、テレビを観たりするも、今日に限っては、新しく登録された汐里さんとやり取りしたメッセージをはじめから読み直していく。
「しかし、いったいどうやったら勝てるんだよ」
現状の俺の力では、かなり条件がそろわないと、あんな化け物を倒せることは不可能ではないだろうか、しかし、彼女が少しだけヒントを言ってくれた気がする。
それは、痛覚は麻痺しているが、きっとダメージは蓄積されているハズであり、敵の活動時間はそれほど長くないいうこと、前回の戦闘の正確な時間は把握していないが、おそらく時間にして十分程度が限界であろう。
そんなことを考えていると、下でお米が炊きあがった音が聞こえ、直ぐに下に降りていく。
今回のお米は新品種で『艶な姫』と命名されており、上品な甘さと噛むごとに広がるお米の香りが絶品である。
それにあう料理として今回選んだのは、そう! 夜に食べる納豆なのだ、これを邪道と思う人も多いだろうが、その固定概念を捨てて、一度でよい、夜に納豆を食べてみてくれ。
ちなみに、俺がよく食べる納豆の食べ方は数種類ある。
大多数は反論するであろうが、それは砂糖を入れるのだ、これがたまらない。
粘りが増して、出汁醤油と合わさると甘じょっぱい納豆が、ご飯に絡むのだ。
そして、次は定番のネギであるが、是非ともやっていただきたいのは、秋以降に収穫される辛み大根をすりおろして、納豆に混ぜて食べていただきたい。
ぴりっとした辛みが、納豆によりマイルドになり、さっぱりとした味わいと大根の風味がマッチして、とても美味しいく、また何度も求めてしまうのだ。
そして今回は、ネギとカラシを入れた納豆を熱々のご飯にのせて、汁物は赤みその油揚げにわかめを入れたみそ汁、もちろん漬物は沢庵とべったら漬けをチョイスした。
他にも食べるモノはあるが、たまにこんな食事を無性にしてみたくなるのは、きっと俺だけでないと信じたい。
次の日、学園に着くと同時に異様な気配を察知したが、その正体はすぐにわかる。
なぜならば、ずらりと玄関から教室までの階段をマッチョ軍団が占拠しており、一人一人の生徒にむけて元気に挨拶をしているが、今までこのような光景を見たときがない。
なんて解りやすい挑戦状なのかと思って、渋々靴を履き替えて歩き出すと、あからさまに殺気がこもった視線が体中に刺さる。
そして、階段を上り終えたときに副長と書かれた腕章が目に入る。
目の前には、あの乳酸の男性が立っており、俺に手紙という名の果たし状を手渡した。
それを確認すると、また今までどおりに生徒に挨拶を開始した。
それを背にしながら手紙の内容を読むと、今度は放課後に体育館裏に来いと、これではただ単に虐めではないのかと思ってしまう文面が記載されている。
そして、教室に着くなりポケットに入れていた携帯端末が震える。
おそらく連絡の主は彼女であろと思われたが、やはりそうであった。
『いくんですか?』
飾りっけのない文字を読んで、行くことを告げる。
もし、これで逃げてもいずれは戦わないといけない相手であり、昨日の考えが正しければなんとかなるという楽観的な考えがあった。
更に驚くべきことは、朝のホームルームで本日の部活動は中止か学園外で行うようにと、生徒会からのお願いにより、放課後はほぼ無人の学園になるそうだ。
ここまでお膳立てしてくれるのは、ありがたいことなのか? しかし、それだけの権力を生徒会は握っており、それは生徒だけでなく先生にも強い影響を与えている。
授業は、まるで俺たちの心配をよそに通常運行で行われ、昼には恒例の漬物パンを頬張りながら、屋上で考え事にふけっていると、俺の横に立つ影があった。
「どうやって闘うんですか?」
「君こそ、どうやって倒すの?」
「人の心配できるような状況ですか? 私は安心してください、強いので」
「知っているよ。 だから、俺が勝てる方法を今考えているの」
「隣いいですか?」
「いいよ、ついでに聞きたいことがあったし」
俺の隣に腰を下ろした汐里さんは、何を聞きたいのかと問いかけてくる。
「なんで、この前のように激しく闘ったのに、スカートはめくれないの?」
「はああああああああ!?」
これは、大いなる不思議の一つでもある。
なぜ、あれだけの運動量なのに、一つもその神秘の布の先は垣間見えなかった。
しかも、あの少し、ほんの数センチなのに、それが遠くもどかしくあった。
「ちょっと、なに変なこと聞くんですか!? 少しは心配してきてみれば、もういいです――‼ では放課後に!」
機嫌を損ねたのか、彼女は急いで屋上から駆け出していった。
さて、どうやろうかな。
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