第一章 二幕 押忍! 筋肉応援団現る。

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 つい先日までは、放課後になるのが楽しみでしょうがなかったのに、今日に限っては永遠とこないでもらいたいと願ったが、そんな日に限って授業は滞りなく進んでいく。    そして、ついに全然待っていない放課後が訪れると、部活や委員会はあらかじめ禁じられた日なので、皆がいつもより足取り軽く帰宅していく。  そこは青春真っ只中! 数名のグループでひっそりと放課後ライフを満喫している人もちらほら見受けられたが、見回りにきた先生や風紀委員により強制的に帰らされている。  そんな中、こちらは誰もいない学園内をゆっくりと目的の場所に向かって歩んでいく。  おそらく彼女と俺は合流できないであろう。  なぜならば、この状況で圧倒的な戦力なのは蜂谷さんで、俺は特に戦力にはなっていないと思われている。    ズバリ! その通りなのだが、そんな中で確実に仕留めるならば、その力を分散させるのが常識であり、前回の乳酸に苦戦していたので、十中八九間違いなく、彼女には彼が向かうであろう。  そして、俺一人捻りつぶすために盤石の布陣で挑むのであれば、日根野一人が俺の相手であるのは間違いない。 「はぁ……」  重いため息が漏れると、いつもなら階段を一段飛ばしに降りていくが、今日は一段づつ丁寧に降りていく。 *** 「あれ? 先輩まだきていないのかな?」  手紙に記されていた場所であった体育館に足を踏み入れると、天井が高く運動部が活動しているときの音もないので、よけいに響いて聞こえた。  もしかすると、誰もいない体育館は初めてかもしれない、そう思うとなぜかドキドキしてくるが、すぐにその気持ちを振り払う。  そう、薄暗い奥のステージ上に何かが積み重なっており、プンプンと嫌な気配が漂ってくる。 「待ちくたびれたぞ! 蜂谷ぁっ!」  その言葉がこちらの足音をかき消すと同時に、ステージに灯りがともり、そこには筋肉軍団と中央には、応援旗を持ちながら、プルプルと震えている乳酸が立っていた。  しかし、その顔は既に真っ青になっており、先日の先輩が言ってたように、おそらく朝から活動を開始していたのだろうけど、探るまでもなくあちらから声をかけてきてくれのだ。   「ちょっと、日根野くんは? それに先輩も見当たらないんだけど」  それを聞いて、旗をゆっくりとおろすと背後に控えていたメンズが一斉に胸筋を動かしだした。 「わからんのか? 佐々はこっちにこない! あいつには委員長が直々に出向いてくださっているのだ」 「なにそれ、卑怯じゃない!?」 「卑怯? 戦略っと言ってもらいたい、それにあんな雑魚がいたところで大局は変わらない、お前たちが負けるという未来は変わりえないのだ」  旗を前回のようにしまい込むと、それを合図に後ろの軍団が迫ってくる。  呼吸を整えて腰にさげていた得物を抜き取った。  今回は前回のような刀ではなく、あえて木刀を選んできた。  威力は極端に低くなる、しかし、それ以上に増すのはスピードと手数に、重さを利用したスピード感は無くなるが、手返しの利便性を利用して敵と対峙した。  そして、彼らは目の前で停まると急に騎馬戦のように三人組が二組と左右を走ってくる二人に分かれる。  前回のように、バラバラに突撃しては返り討ちにあうだけと思ったのか、今回は先頭の一人がやられても、残りのメンバーで攻撃を繰り出してくる作戦のようだが、それすら甘い。 「はぁああぁっ!」  突進してくる敵に対して鳩尾(みぞおち)に突きを一撃、先頭の男性が倒れるが両側から挟撃をうける。  すぐに木刀を手首のスナップをつかって左右に繰り出すと、弁慶の泣き所と顔面をほぼ同時に攻撃する。  挟撃をしてきた男たちは無残にも倒れていく。  次に第二陣とそれに追従するかたちで、両脇の二人が同時に攻めてくるが、今度も先頭のメンズの足を払いのけると、横転がおこり、三人が一気に倒れ、それを見ていた二人は少し動きを鈍くする。    そこを見逃さず、その二人に標的を切り替えると、まずは右側の敵を縦一線の一撃で気絶させ、すぐに切り返し背後にまわり、背中に十字の文字を描く。   「ぐぁあ!」  最後に、いまだに床に倒れている敵を的確に一撃で気絶させていくと、残っているのはあの乳酸のみとなった。 「雑兵ごときでは、足止めすらできないか、しかし、既に俺の身体はポッカポカだぞぉお!」 「そんな、木の棒適度ではこの鉄の棒は止められん!」  渾身の一撃を放つ敵は、鈍く空気を切り裂く音の後に響き渡る床を破壊した音が聞こえる。   「あ、れ? いな――⁉」  今まで私がいた位置に虚しく振り下ろされた一撃をゆったりとかわすと、直ぐに背後に回り込み、木刀を構えながら一呼吸で決着をつけにいく。 「前はいきなりのことで動揺した。 でも、今回はやり口わかってたし、最初は普通の刀でも大丈夫かな? って心配して一応木刀もって手数で圧倒しようと思ったけど、いらない心配だったね」   「この! くそがぁぁあ!」  敵がまるでスローモーションのようにこちらに振り返ってくるが、横顔があまりにも醜いため、背中に縦一撃。 「次、横! 一発、二発!」  立て続けに左右の攻撃をあびせ、漢はのけぞりながら悲鳴をあげ、最後はその背中を思いっきり蹴飛ばした。    ドスンと、鈍い音をたてて倒れると、後に残ったのは一本の鉄の棒が虚しく奏でる金属音だけが残った。   「さて、こっちは予想以上に楽勝だったから、先輩助けにいかなくちゃ、でもこの広い学園のどこで闘っているの⁉」  急いで出入口に向かって走り出し、日根野から救うべく一気に速度を上げていく。   ***  のび盛りの雑草を踏みしめながら、体育館裏へ行くと、そこには長身ながら猫背になっている一人の男性が待っていた。   「どうも、その姿は初めましてかな?」    緊張で歯がカタカタと音をたてそうなのを堪えながら言葉を発すると、日根野はこちらに気が付き、得体のしれない笑みを浮かべる。 「逃げなかったんですね」 「逃げても、どうせ学園にいるうちは闘わないといけないんだから、逃げるだけ無駄だよね」   「先輩、余裕なんですね……でもその余裕がいつまでもつんですかね」  特別余裕というわけではないが、足が棒のように固まって意識していないと、腰が来た道を戻りたいと強制的に振り向こうとしている。  更に付け加えるならば、緊張しすぎて顔の筋肉が固まっているだけで表情を変えれないとは、絶対言えない。  ニタリとほくそ笑みながら、ポケットにしまっていた栄養ドリンクが入っていそうな瓶を取り出すと、その中の液体を一気に飲み干した。  すると、今までひょろっとしていた彼が、みるみる見事な肉体に変貌を遂げていく、いったいどんな仕組みなのだろうか。  すぐに見た目はかわり、この前の彼の姿にかわると、また水筒に入れておいた液体を、ゴクゴクと喉を鳴らしながら流し込んでいる。   「ぷはぁ、今日は最初から本気でいかせてもらうぞ!」  目が充血しだし、体中の血管が浮き出て着ている制服ははじけ飛んでいくが、毎回そんなに破いていては、どれだけお金が必要なのか、無駄に脳内で計算したが、掛け算の計算をしている途中で、空気を殴る音が近づいてきた。  それを急いで回避すると、すぐ顔の横を剛腕が通り過ぎる。  拳がおこした圧だけで、頬がピリピリと痛み出し、一気に緊張よりも恐怖が体中を支配しだした。 「逃げるだけか⁉ そんなので勝てるとでも思っておるのか? 逃げまわっても奴はこないぞ!」 「最初から彼女を頼りにしていないよ」 「なに?」 「君らも知っていると思うけど、俺は罠を使う、きっとそれは卑劣でも卑怯とでも受け取られるだろうが、前回と決定的に違うのは?」   「なにをごちゃごちゃと! くたばれぇ‼」  また大きな拳が迫ってくるが、今回は回避行動はとらない、いや必要ない。 「ぐおォ?」
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