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黒く焦げながらも、息をしているのを確認すると、一応胸をなで下ろす。
これで死なれたら、元も子もないが、この爆発に耐えるなんて普通ならば不可能である。
気絶している程度で、この肉体は既に『肉』ではなく、金属以上の強度をもっている。
爆発とその衝撃をもってして、ようやく倒せる敵、これはきっとどこかの国が絶対欲しがる技術だろうが、もしそうなったら、世界の情勢は一気に変わりそうである。
「ちょっと‼ なにやっているんですか? さっきの爆発って……? きゃぁぁあ!」
この騒ぎを聞いてきた彼女が現れると、目の前で黒焦げになっている彼をみて騒いでいる。
「あわあああわわっわわああああ、下着、下着がない!」
なるほど、あまり目が行き届いておらず、この爆発で彼の身体は無事だが、強化されていない下着は綺麗に吹き飛び、日根野は全裸になって倒れている。
しかし、あの薬――あそこまで強化できるのか、俺も少し欲しいかもしれない。
その姿をみて混乱している汐里さんは、なぜか小太刀を取り出すと、目をぐるぐると回しながら彼に近寄っていく。
「おいおい! ストップ、何を考えている⁉ ちょっとこっちに来て」
嫌な予感がして、彼女の手を握ってその場から離れると、学園に備え付けの自動販売機で清涼飲料水を買い、それを渡し、一気に飲みすすめていく。
「あれ、どうやったんですか?」
「それは……。 詳しくは言えないけど、とりあえず勝てた」
言葉を濁しながら、苦笑いを浮かべると彼女は目をキツクしながら、下から綺麗な顔で睨みつけてくる。
「あれ、先輩がやったんですか? それなら凄すぎますが、普通の人にはやらないですよね?」
「もちろん、あれ使うってなると、ほぼ戦争レベル」
その言葉を聞いて、少し落ち着てきたのか、肩でため息をつくと安堵したかのような、表情でこちらに言葉を投げかけてきた。
「とりあえず、無事でよかったです。 あいつら私たちに別々の場所を指定したんですよ」
「うん、そうなるとは思っていたけど、そっちは余裕だったでしょ?」
「はい、あんなやつらに負けるわけないです」
その後話を聞くと、どうやら彼女は俺が戦っていた場所のすぐ近くで戦闘を行っていたようで、事が片付いたら、俺を探しに学園内を探したようようだ。
しかし、灯台下暗し状態で、まさかすぐ後ろでやっているとは、思わないだろう。
あの爆発がなければ、まだ探している段階であったのは間違いない。
「でも、先輩もやっぱりそれなりに強いんですね」
「なんだよ、それなりって――汐里さんもわかっていると思うけど、俺は直接闘うと物凄く弱いよ」
「知ってます。 けど勝てないんですよね、なんででしょう」
「そんな、俺はこの程度だけど、ウチの親になるともっとすごくなるよ」
「そういえば、ご両親も罠師なんですか?」
「う、ん? ちょっと違うかな、正確にはオヤジが罠師で、お袋はどちらかっていうと、暗殺とかが得意」
「え? 暗殺⁉」
想定外な返答に少し困惑しているが、詳しくは後日話すとして、今は疲れた体を癒すために、どこか行って休憩しようと提案すると、彼女は嬉しそうに快諾してくれた。
二人そろって学園から立ち去ろうとしたとき、彼女は今まで話しておいた場所に戻り、自動販売機でコンポタを購入すると、俺に投げ渡す。
「よっしゃ! とりあえず勝利の乾杯‼」
なぜコンポタなのかわからないが、その言葉は素直にうれしいので、熱々のコンポタと清涼飲料水を乾杯して、今回の祝勝会の幕があがる。
***
「そうか、日根野が散ったか」
「はい、蜂谷の戦闘力が予想以上でして、副長程度では抑えれませんでした」
図体の大きな男性が、神妙な面持ちで目の前の女性に報告をする。
「それに、あの佐々と呼ばれている男性も、不思議な罠をいくつも用いて日根野を倒しております」
フードを被った女性が、横から捕捉の説明をいれていく。
「正直、彼の力に関しましてはまったくの未知数としか報告できません、いったいこの学園にいくつの罠をどのような規模でそろえているのか、不透明すぎます」
淡々とした口調で答えた。
「でも、日根野に関しては、彼には弱点が多すぎる。肉体強化は凄いけど、彼の元々の身体能力ではもって十分程度と、正直いって薬が彼に適合したからよいものの、もっと適任がいたのかもしれない」
生徒会室から見える景色に目を細めながら答える生徒会長。
その瞳はどこを覗いているのかわからないほど、深く綺麗に揺れていた。
「さて、彼は当分使い物にならないだろうから、次はだれがいいかな? 美化委員長に任せようか?」
「そ、その生徒会長、今度の作戦に志願したいと言っている人物がおります。 そいつに任せてはいかがでしょうか?」
少し緊張した声色で男が進言すると、彼女は嬉しそうに微笑む。
「いったい誰だい? そんなやる気のある人物は歓迎だよ」
「は、ありがとうございます。 そして、その人物なのですが、購買委員会の委員長であります 土岐 ナツメでございます」
「ほう、彼女か、よし任せた」
その言葉を聞くと、二人は部屋を出ていき、直ぐに会長の伝令を購買員会の長に伝えにいく。
「あんな筋肉に任せれるわけないわね。 ここはやっぱり私の出番!」
白いエプロンに身を包みながら微笑むその影は、なぜかとても楽しそうに踊っていた。
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