第三幕 金髪ツインテは甘い料理

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「な、なんだと⁉」  信じられん――この学園生活において、自身の根幹を揺るがす出来事が発生してしまった。  それは、毎日これを楽しみに学園に来ていると言っても過言でない、あの『漬物パン』シリーズが、まさかの製造中止になってしまっている。 「そ、そんな……明日からどうやって生きていけばいいんだよ」  つい先週は、あの筋肉日根野と闘ったばかりで、こちらはほぼ無傷ですんだけれど、彼は一週間ほど自宅で療養するらしい。  その程度で済んだことが更に驚きだが、それ以上に衝撃なのは、この件であった。 「ちくしょう、今朝はスクランブルエッグ作ろとしたら、なぜか卵焼きの味付けにしてしまったし。 あの卵焼きかスクランブルエッグの選択をミスったあたりから、俺の人生が変わったきがする」  肩を落としながら屋上には行かず、そのまま教室に戻ってこの悲しみに打ちひしがれようとしたが、たまたま通りかかった購買委員会の前で、なぜか新作の試食会を行っていた。 「あ! 一成くん! どう? 一ついかがでしょうか?」  同じクラスの女子が鍋から紙コップに液体を注ぎ込むと、それを手渡してくる。  それを受け取ると、まっさきに刺激されたのは香りで、この香りを今まで体験したときがない。  そして透き通るような琥珀色の飲み物に、かぐわしい果実の香りが勝手に体を誘い、そのままコップに口を近づけると、ひと口飲み込んだ。  すると、独特な甘さにライチのような感覚を受けるが、少し違うようにも思えた。  しかし、この飲み物、凄く美味しい。  俺はその後も続けて飲み続けると、すぐになくなり、正面に控えていた彼女が「感想どうぞ!」的な表情でこちらを見つめてくる。 「凄く美味しいけど、これなんていう飲み物なの?」 「お! 好評ですか? これは竜眼って呼ばれる果物のジュースで、主にマレーシアやタイなんかで飲まれてるんだって」   「そうなんだ、ちょっと癖になるかも」 「それは良かった、これ好評なら今度の金曜日にみんなで販売しようと思うんだけど、買ってくれるかな?」 「是非とも、その時は一番に買わせてもらうよ」 「まいどあり♪」  ゴミ袋に紙コップを捨てると、そのまま別れを告げて教室に戻っていく、心なしかパンの衝撃が和らいだように思えて、少しだけ元気がでたように思える。 *** 「委員長、これでいいんですか? 一成くんに飲ませましたが」 「そうか、ご苦労! これでやつは、ククククック……」  不気味に笑うその女性は、綺麗なストレートの金髪を左右で結んでいる。  つまりツインテールであり、キリっとした目つきと、八重歯が特徴的な美少女で、この稲葉山学園の購買委員会の委員長でもある。  ちなみに学年は佐々と同じであるが、クラスが離れているため、お互い接する機会はほぼ無い。 「ところで、やつと親し気に話ていたが、その、なんだ、あれだ」 「うん? なんですか委員長?」   「いや、なんでもない! 気にするな!」  少し慌てふためいて静止をかけるが、その瞳はしっかりと彼をとらえていた。 「待っていろ、貴様は既に終わっているのだ」  
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