第三幕 金髪ツインテは甘い料理

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 なんだか、異様に喉が渇くような気がする。  先ほどのジュースを飲んだ後に、自動販売機に寄ってヨーグルト味の水を購入し、一気に飲み干したがそれでも渇きはかわらない。  むしろ、飲み過ぎて胃がタポタポ鳴っているのが、気になってしかたがないうえに、あれだけ飲んだのにも関わらず、次の水分を探してしまっている。  しかし、不思議なことが起こった。  それは、先週彼女にボコボコにされた応援委員会の筋肉軍団なのだが、包帯や絆創膏をしながら普通に学園生活を送っている。  これ、通常なら俺らって退学処分や下手すると捕まるレベルな事しているが、まったくその気配がないのは、おそらく生徒会が抑止しているのか、誰も口に出していないのだろう。   「やば、なんだか漬物パン食べないと力でない」  もはや禁断症状ともいえる漬物パンへの想い、これはすなわち! 『愛』と表現してもよいのではないだろうか。  それを無残にも引き裂いたのは、いったい誰なのか?   そんな好奇心が心の中でムクムクと膨らみだし、午後の授業が終わり、学友に一緒に帰らないかと誘われたが、それを丁寧に断ると、また購買の方角へ足をむける。  教室を出て、一個目の階段を下っていくと、ちょうど汐里さんが友だちと一緒に登ってきているが、上から見る彼女の胸は一段と破壊力が増していおり、大変申し訳ないが、どうやったらそれだけ育つのか今度俺の妹に教えてほしいくらいだ。  以前、真剣に悩んでいる妹に対して適切なアドバイスをしようとしたが、全力で拒否されたうえに、変態のレッテルを貼られた。  それでも兄はお前が悩む姿を少しでも和らげようとしたにすぎないのに、この気持ちを誰が理解してくれるであろうか。 「あ」  彼女の胸部に視線を釘付けになりながらも、階段の途中で視線が合うものの、下を向いて友だちと一緒に上に行ってしまう。    少し寂しい気持ちもするが、今は漬物パンの真相を探るべく、気持ちを切り替えて前に進むしかない。  そして、いつもの購買の場所に来た。 今の時間は当番の生徒が店番をしながら文房具類を売っているだけだ。  この静まり返った場所が、昼休みになると一気に戦場に化すのは、なにか異様な感じがする。  それでもあのパンはひっそりと誰の目にもとまることなく、売れ残っている。  なので、ゆっくりと買い物ができるうえに俺の姿を確認すると、当番の人は左手を差し出して百円を受け取ると、右手でパンを渡してくれた。  それは長年連れ添った阿吽の呼吸が完璧な夫婦のような感じがあり、この学園で自慢できることの一つでもあったのだ。 「すみません」 「はい? なにかご入用ですか?」 「いや、その、いつも昼に売っているあの漬物パンなんですが、明日には販売再開しますか?」  「あぁ……、 えっとそうですね。 実は、大変申し訳ないんですが、あのパンは製造コストが物凄く高いうえに、毎日一個しか売れないので、利益が全然でていなかった商品なんですよ」  大きく息を吸い込んで淡々と告げてきた。 「なので、今後は再販の予定はないんです」  とても申し訳なさそうに、言葉を選びながら返してくれる。  しかし、曖昧な情報ではなく、しっかりとした方針を俺に知らせてくれるのは、おそらく優しの一つのように思える。 「やっぱり、薄々気が付いてはいたけど、そっか、いよいよ立ち直れないかもしれない」 「でも! あのパンをずっと買ってくださっている人がいるのは知っていました。 本当に今までありがとうございます」  深々と頭を下げる女性は、本当に心から感謝を述べているように感じられ、少しだけ憂鬱がぬぐわれると、お礼を述べて、その場に背を向けた。  次のテーマはどこの国だろうか? それを考えるだけでとてもワクワクしてきた。  それが味わえないのは悲しいことではあるが、それを乗り越えなければいけない。    きっとこれは、神様が俺に与えた人生最大の壁であり、これを突破するときっと新たな境地に達することができるような気がしてきた。  購買からまっすぐ帰ろうと思ったが、筆記用具などが入ったカバンを教室に忘れてきてしまったのを思い出し、来た道を引き返そうと思った。  しかし、登山部のメンバーが階段を使って筋トレを開始しており、邪魔をするのは申し訳ないと考えて、少し遠回りであるが別の道を選び歩きだすと……。  登山部の声が段々と遠ざかっていくのを感じている。少しだけ違和感を覚えてその場で立ち止まった。 「なんだ? この美味しそうな匂いは?」    それは、肉が焼けるような香ばしさに加え、ニンニク醤油にごま油が加わったような空腹を刺激する強烈な香りが、渦巻いている。  この正体を探るべく、廊下の突き当りを教室にいくには、左なのだが香りのする方へ足をむけて進むと、次第にその発生源に近づいていく。  そして、おそらく目の前の何にも使われていない教室の中が怪しいと思い、その扉を開くとそこには一人の女性が立っていた。
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