第三幕 金髪ツインテは甘い料理

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  そのあと結局ドリンクバーに切り替えて、様々な種類の飲み物を試したが、一向に喉が潤うことはなく、それを見ていた汐里さんは、心配そうな顔をして病院に行くように促してくれた。 「じゃあ、この後病院しっかり行ってくださいね。 それと、帰ったらまたメッセージでやり取りして対策を考えましょう」 「そうだね、でも前回みたいに武闘派揃いって感じがしないから、幾分か気持ちが楽だけど」 「たしかに、あんまり身体的や技術的な恐怖は微塵もうかがえませんでしたので、おそらく戦闘に関してはド素人だと思います」 「でも、あれでれっきとした十二神将の一人だと思うから、気を抜かないようにしないとね」  会計を済ませると、お互い商店街の入り口から反対方向へ歩いていく、そのあいだにも自動販売機や飲食店のディスプレイにある飲み物を見ると、自然と体がそちらに寄っていってしまうが、堪えて病院まで少し早歩きになって向かう。  診察を終えて帰宅する。  その後すぐにコップに水をそそぐと、それを一気に飲み干してかお風呂に湯を入れて、晩御飯の準備に取り掛かろうとする。  しかし、今日に限っては食欲もあまり無いように思えた。  炊飯器のスイッチを入れてから、携帯端末を確認すると、そこには汐里さんからのメッセージが入っており、診察の結果をおしえて欲しいと書かれていた。 『結果どうでしたか?』 『特にどこも異常ないって』  何か他にも書こうか悩んでいると、直ぐに返信がきた。 『ならよかったです。 お薬とかも特別出なかったんですよね?』 『そうだね、薬っていうか本当に体のどこも悪くないから、薬すら出されることがなかった』 『とりあえず、一安心ですね。 それで何か対策を思いつきましたか?』  この件に関しては、病院で診察時間の何倍も長い待ち時間を利用して考えていた。  俺をピンポイントで狙ったこと、そのために特殊な匂いをつかい、委員の方々も何かに操られているかのような状態にいる。  しかし、戦闘力に関してはあまり高くないとお互い判断できた。 『以上のことを考慮すると、ごり押しで行けるかもしれないですね』  確かに、それは考えた案の一つでもある。  彼女の戦闘力ならば、敵の戦力では太刀打ちできる人物はいまのところ見受けられない。  それならば、ある程度こちらに有利な条件を整えることができるなら、汐里さんの力でどうにかなりそうである。 『先輩、自分がなんとかしようとは考えないんですか?』  ごもっとな意見ですが、前にも申しましたとおり、彼女以上の戦闘力を私はもっておりません。  長い物には巻かれろではないが、現状の戦力を考えるならば、これが一番よい案であると告げる。 『本当に先輩って、私やあの日根野くんを倒したんですか?』 『汐里さんを倒したってのは語弊があるけど、日根野に関しては、まぁ運よく倒せたと思っている』 『なら、今回は私の強さを証明してみせます。 いつまでも先輩に後れをとっているようでは、なんか物凄く嫌なので』  心境が複雑になるメッセージを閉じると、再度脳内で情報を構築していく。  今回の敵は回りくどいやり方を好んでいるように思える。  なぜか? 答えは単純明確で購買委員会には正面衝突でこちらを崩せるだけの戦力がない証拠であり、そのためにわざわざ、俺だけを狙った戦法をとってきている。  前回の筋肉集団は、最後こそ分断させてきたが、最初は武力にものを言わせた戦術できた。  得意不得意の分野があるのは人として仕方がないが、こうも真逆だとなんだかやりにくく感じてしまう。  ならば、次に敵がとってくる手段は確実にまた奇策を用いてくるであろう、そしてその狙いは十中八九この俺である。  わざわざ自分たちより強い敵を狙うのはリスキーすぎるうえに、俺のことを相当研究されている。  だから、あんな匂いまで作れてしまう。  最初っから分断させるのが目的なら、もう一方に彼女が好みそうな香りで俺から離せばよかったが、それをやってこない。  たぶん、まだそこまで研究されていないのであろう、これらの情報をもとにして考えると、やはりこちらに矛先が真っ先に向かいそうである。  希望的観測を入れるなら、前回の接触で懲りてくれれば助かったが、やはり物事というものは思い通りにいかない。  その後は、夕ご飯もろくに食べずに、お風呂に入ると早々に眠りにつく。  しかし、朝の三時に目が覚めた。 猛烈な喉の渇きと、体が震えだし、悪寒までしてきたのだ。  一応熱を測っても平熱程度で体もだるくない、なので食欲がないが無理やり食事を胃に突っ込むと、そのまま学園にいく準備を終わらせる。  普段よりも随分と早い時間帯に学園に向かっている。  とぼとぼと歩いていくうちに商店街が見えてきて、その入り口のバス停に一台のバスが停車すると、その中から一人の女性が降りてきた。  その瞬間、体は強張り一気に緊張が駆け巡り、あの土岐 ナツメが降りてきたのだ。  こちらに視線を向けると、視線がぶつかり合う、そして、なぜかあちらが焦ったような表情になり、少し慌てふためいた様子になると、こちらに向かって小さい体で歩いてくる。 「ちょっと、そんなに警戒しなくても大丈夫よ。 こんな街中で襲わないし、そもそも生徒会長からも注意を受けているから、学園内でしか闘わないようにって」 「はい? ってことは、単純に学園の外に出ると安全ってこと?」 「まあ、簡単に言えばね。 あ、忘れてたけど、その……お、おはよう」  予想外の連発に少し脱力しそうになるが、挨拶はちゃんと返さないといけないのは、妹含め大勢の人に教わってきた基本である。 「うん、おはよう。 ちょっと意外かな、てっきり地の果てまで追われるのかと思ったけど」 「学園内にいるうちはそうなるけどね。 それより、そんなところでつっ立ってないで、行かないの?」  親指で学園の方角をさすと、こちらに背を向けて歩きだした。  先ほどの言葉を今は信じて学園に行くとするが、それでも緊張感は保ったままにしておく。 「で、ちょっと聞きたいことあるんだけど」 「な、なに?」 「その、あれよ! あれ、いつもあなたのそばにいる後輩の女の子って、もしかして彼女?」  こちらの情報をさぐりに来たのか? それならばあまり手の内を晒さないことにするのが基本中の基本だ。  しかし、この質問にどんな意図がるというのだ? 正直いって全然検討がつかない。 「いや、違うけど……」 「けどってなによ? 煮え切らないわね」   「そもそも、こんなこと聞いてどうするんだよ」   「はぁ? べ、別にあんたに興味ないし、あくまで作戦に利用するためだからね」    振り向いた彼女は、顔を真っ赤にしながら、少し怒ったような表情でこちらに言ってくる。  普通は作戦に利用するためって言わないと思うのだが。 「で? どうなのよ。 答えないさい」 「だから、彼女っていう関係ではないって言っているじゃん」 「さっきから聞いていれば、その曖昧な返事、本当にイライラする。 ふん! もういい、先行く」  いやいや、先行くって大前提として一緒に向かっていないし、たまたま(・・・・)時間が重なっただけに過ぎないうえに、意図がくみ取れない質問をされて一方的に不機嫌になられると、どう対処してよいのかわからない。  しかも、それほど女性との会話が上手なわけでもなく、むしろ学園生活の中で、ここ最近の会話相手がほぼ女性なのが驚きである。  おっと、勘違いするなよ? 俺だって今までまったく喋った経験が無いわけじゃあない。   相手は、その――妹とか妹とか母親とかってだけで……よし、もうやめよう切なくなってきた。  それでも、ナツメと少しの間一緒に話せたが、彼女から特別に敵意のようなものは感じられず、日根野のときまったく違う感じする。  更に付け加えるならば、彼女がつけているのか香水の香りがとても心地よく、もう少しだけ嗅いでいたかったと思うのは変態なのだろうか?    そして、学園に着いたときには今まで以上に喉が水分をもとめており、急いで自動販売機で強い炭酸飲料を購入して飲み込むと、刺激が喉に染み込み、一瞬潤ったと思ったが、またすぐに枯渇した。  続けて飲んでいくと、すぐにペットボトルが空になり、これではお金がいくらあっても足りないので、水道水で我慢するが、いくら飲んでも飲んでも足りない。 「クソッ! どうなっているんだよ」  ホームルームを告げるチャイムが聞こえてきたので、急いで教室に戻ると、この前あのジュースを試飲させてくれたクラスメイトが声をかけてくれた。 「一成くん、ちょっとまたあのジュース少し変えたからまた試飲頼める?」  少し考えればわかった、彼女は購買委員会であり、これは何かの作戦であるのは間違いないのに、俺は反射的に体が欲したかのように答えてしまった。 「うん、喜んで――」  
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