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放課後になると、クラスメイトに連れられ、教室から出てそのまま購買委員会の使っている調理室へ向かう。
この段階で既に、こちらの意識は曖昧で、とにかくあのジュースが飲みたい願望だけが脳内を渦巻いており、それはどんなに思考が鮮明になっていても決して抗えるものではない。
「きたな」
部屋の扉をくぐると、ナツメを中心に二人の女性とクラスメイトによって中央のイスへ座らせられ、そのまま無低のままグルグルとロープで縛りつけられる。
「は、はやく、ジュースをください」
嫌な汗が体中から流れ出ていき、悪寒に加え吐き気ももよおしてきてた。
「そう焦るな、ここで提案がある。 もし、お前がこのまま私の下僕になるならば、このジュースを与えるがどうする?」
「あぅ、あ…、あああぁ」
欲しいと思う体と、それを僅かに制する感情が入り乱れて、声がうまくだせない。
「ふん、少し効きすぎたか。せっかくだから教えてやる。 もう既に気が付いていると思うがこの飲み物は竜眼ジュースなどではない」
腕組みをしながら、俺を見下ろしてきた。
「強烈な依存をもたらす私特製のジュースなのだが、これを私が飲んでも普通に美味しいだけ、でも、これが一滴でもお前の体内に入ると、定期的に摂取しないと今のように禁断症状になる」
思ったとおりだ、このままではすぐにでも返事をしてしまいそうになり、そしてナツメはニヤリと笑ったままゆっくりと水筒の蓋をあけようとした。
その瞬間、後ろのドアが開き大慌てな白いエプロンを着た女性が入ってくる。
「委員長、大変です。 例の女なのですが、こちらの行動を察したようで、まっすぐ向かってきております」
「ようやく反応したか、あのお前の許嫁となっている小娘に痛い目を見せてやれ、既に準備は整えている。 そちらの対応は副長に任せた、お前らも歓迎してくるのだ‼」
その合図を受けて、部屋にいた人が腰から包丁や長いアイスピックを手にもつと、ぞろぞろと調理室から出ていく、その目は既に正気を失い、前回のような人形の目をしていた。
もしかすると、彼女たちはずっと、そうなっており、それすら気が付かない状態に俺はなっていたのかもしれない。
それに、一つ気がかりなのが、今朝の段階で汐里さんが俺の許嫁という情報は彼女に流していない、どこでそれが漏れたのか。
「まぁ、あの胸だけ星人はこれでいいとして、さて、こちらもそろそろ始めるとするか。 これで、ようやく二人っきりになれるな」
***
「やられた――!」
同じクラスの購買委員の人が、前回同様に正気を保っていない状態になっており、気がかりになって先輩の部屋へ来てみると案の定、既に連れ去られた後であった。
すぐに教室から出て隠していた日本刀を腰に構えると、違和感を覚える。
「誰もいない……?」
今まで放課後の喧噪に浸っていた学園が、まるで誰もいなかったかのように静まり返っている。
急いでガラスから外を覗くと、多くの生徒は既に学園を去りつつあり、部活もおこなっていない、まるで無意識に帰宅をさせられているような感じがする。
そして、これはあの筋肉軍団と似ており、ついに敵が大規模に仕掛けてきた証拠でもあった。
階段を急いで降りていく、とりあえず、購買のある場所を目指し、その隣に隣接している調理室がもっとも怪しいと直感でわかったが、簡単にはいかないと思っている。
調理室まで直線でおよそ百メートル程度だが、廊下には三重に築き上げられたイスと机のバリケードと、白いエプロンと三角巾を被った女生徒が得物を持ってこちらを待っている。
「そこをどいてください、痛い目みますよ」
バリケードの上に人影が現れると、それは前回包丁を投げた副長と呼ばれた人物で、こちらに向かって持っている牛刀をかざすと、まずは第一陣のバリケードの前に布陣していた三名がこちらにアタックを仕掛けてくる。
これは強い催眠のような状態にあると思われた。
おそらく、帰宅した生徒も彼女らよりも軽い催眠状態で無意識のうちにそう行動したのではないだろうか。
しかし、基本がなっていない、ただたんに振り回すだけの凶器は私には通じない、最初に狙ってくる箇所は首、そして胴体。
二人が連なる形で攻めてくるが、視線が狙いたい場所から離れないでいるうえに、私にとって彼女たちの動きはスローモーションのように、コマ送りで再生されている。
一人目の攻撃を回避して腹に突きを一撃、これで一人目。
そして、二人目は手に持った武器を捨てると、私に抱き着いてきた。
予想外の攻撃に回避が少し遅れるが、抱き着いてきた生徒をかわし『盆のくぼ』に手刀をあびせ、一撃で気絶させた。
しかし、少しだけ横をむいたスキに次の三人目がアイスピックでこちらに突撃してきている。
まるで、抱き着いた相手もろとも刺す勢いで。
「なにそれ! 出来損ないの三連星みたいな攻撃は私には通じない‼」
体勢が整っていないが、鍛え上げた体幹で居合の一線を放つと、刀は的確にアイスピックを砕き、バランスを崩した敵がよろめくところを狙い、一気に近づくと足を払いのけ、床に倒すと同時に鞘で腹部に突きをくりだした。
これで三人目、後はあの邪魔なバリケードを突破するのみ!
「覚悟は伝わるけど、それだけじゃ私は倒せない!」
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