第三幕 金髪ツインテは甘い料理

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 「一気に決める」  右足で踏み込むとバリケードめがけて走り出していく、上から見下ろす彼女は今度もなにかを呟いて、再度牛刀を掲げて振り下ろした。  その号令を待ってか、バリケードの後方から小瓶が一斉に降り注いでくる。 「今度は飛び道具ってわけ? 確かに有効かもしれないけど、私を止めるのは不可能!」  落ちてくる小瓶を避けると、その瓶は床に当たりはじけ飛ぶ、するとその中から不思議な白い粉が舞い、目に刺激がはしり、涙があふれ出してきた。  それ以降も続けざまに小瓶は私には当たらず、床や天井、壁などに当たっては砕け、白い粉があたりを埋め尽くす。   「うそ、なんなのよこれ」    酷い刺激と涙をこらえて薄く目を開けると、しっかりとガスマスクで防護された女性が続々とバリケードを乗り越えてこちらに向かってきている。   「目つぶしなんて卑怯! お前らには正々堂々って言葉はないのか!?」   「目つぶしとは、存外なことを……これは玉ねぎの成分を濃縮してできた自然由来の優しい粉だよ。 それに、先日は不覚にも遅れをとったが、今回はしっかりと準備している、強い相手にこちらが、どんな手段を使ってでも勝とうとするのは、当たり前なのではないか?」 「あんた、普通に喋れたのね」  副長と呼ばれている彼女が私に向かって話しかけてきた。 「勘違いするな、私は崇高なるナツメ様の意のまま、あのお方の願いは私の願い、そして、彼女たちには少しばかり覚悟が足りないだけで、それを補ってあげると、こんなにも素敵な素敵なナツメ様のために闘う戦士の完成。 あのお方の夢を壊させない、そのためにお前は邪魔だ!」 「どんな夢があるのかわからないけど、私が邪魔なら倒してみなさいよ! それと、目が死んでいるから、てっきりあなたも彼女たちみたいな感じかと思ったけど、違うみたいね」 「ふん、この目は生まれつきだあああ!」  大勢の空気圧が肌に触れる。  四、いや六人ほどの人数がこちらに向かっており、それぞれが殺気を出しつつ、弱っている私めがけて突撃してきたのだ。   「目が見えないなら、もうお終いだ! ゆっくりと逝け!」  すでに勝ったかのような振る舞いをしているようだが、まだ目で得た情報のみで闘っている段階なのか、その事実が私を落胆させた。 「小細工してきたときは、卑怯とか言ったけど、先輩の卑怯とは全然違ったなんの面白みもない、ただの愚策に練度の低い戦士、それに加えて私を低く評価している点。 すべてが噛み合っていない、想いを貫き通したかったら、もっと頑張ることね」  ゆっくりと正面に刀を構える。  峰打ちに持ち換えると、視覚だけの情報にはたよらず、体中の感覚を使って相手と対峙していく、相手は油断しきっており、こちらが刀を振り回すだけの存在だと思っていたのだろうが、残念だがそれはできない。  一人、二人、三人。  一瞬で意識を無くさせると、それをみた残りの女生徒の戦意が萎むのが肌に伝わる。 「な、なんだ⁉ どうして? なんでわかるんだ⁉」 「伝わらないと思うけど、感じるって言えばわかるかな? わかんないよね……ごめんなさい、私行かないと」  更に怯んだ敵を一掃すると、バリケードに向かって走り出した。 「大丈夫、さっきまでの映像が脳内に残っている」    一番手前の机に脚をかけると、次々に上に登っていく。 「うそだ! 絶対見えているだろ‼」  目前に迫った彼女が、弱々しい殺気を振りかざすが、それを左手で受け止めると、優しく刀の持ち手にある、柄頭で腹部を攻撃して、後ろに倒れる彼女を抱きかかえ、小山の山頂に寝かせた。 「さて、先輩生きているかな?」  涙ばかり気をとられていたが、鼻水も大変なことになってきていたので、ポケットからティッシュを取り出して、一応身だしなみを整える。  まだ視界良好とはいえないが、それも問題ない。  
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