第三幕 金髪ツインテは甘い料理

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***  単純に嬉しかった。  自分の手料理が褒められるのが、私には歳が離れた四つ子の弟がいる。  彼らは純粋で、ある日曜の朝に放送されたヒーローもののテレビを観ると、興奮してお互いに見よう見まねでチャンバラを始めると、それを姉である私は微笑ましくみていた。  しかし、直ぐに喧嘩が始まり、誰が悪役をやるのかで揉めている。  それはそうだ、誰しもが主人公や仲間を演じたいと思うのは不思議なことではない、それをわかっていても我慢できずに喧嘩が始まった。    見かねた私はあることを言って、弟たちの喧嘩を治めさせる。 「はいはい! ストップ! お姉ちゃんが敵役やってあげるから、かかってきなさい!」  その言葉を聞いた弟たちは大喜びになって、こちらに向かってウレタンで造られた刀を握りしめて突撃してくる。最初は手加減していたが、段々と攻撃に力がこもりだし、エスカレートしていく。 「ちょ、いた、痛いって」  その日は私が降参して幕を閉じたが、次の日も全員にせがまれると、今度はこちらも新聞を丸めた刀をもって弟たちと闘う。  それを続けていくと、しだいに攻撃の手が見えるようになってきた。  四対一の状況で個々の手がとるように見える。  そして、軽く反撃すると物凄く喜んでもっと強くこちらに向かってくるが、その顔は常に笑顔であり、それは私も嬉しいことであった。  四つ子と私を養うために、両親は朝早くから夜遅くまで働くようになり、時間に余裕のある私は家事を手伝うようになり、自然と料理をするようになったが、最初につくった不格好なオムライスを食べた弟たちが笑顔になった。 「姉ちゃんのご飯美味しい!」  とても嬉しかった。  稲葉山学園に入学して早々、購買委員会に入ったのも料理ができるからっていう単純な理由。  私には特殊な能力があって、食べる相手が好きな味付けにできることができ、すぐに委員会内でも上位の位置づけに上り詰めることができた。  そして、ある日の出来事で街に夕ご飯の買い出しに出かけていると、同じ委員会の女子が見知らぬ男たちに絡まれており、それを助けたとき、常日頃から弟たちの規則性のない攻撃を防いできた私にとって、男たちの行動はすべて見え、とても簡単に打ちのめすことができた。  その時助けたのが、今の私の手足となって働いてくれる副長で上級生であるが、あれ以来私を慕ってくれている。  それを偶然見ていた竹中が、私を委員長に抜擢し十二神将と呼ばれる生徒会直属の部隊の一員に推薦してくれたが、最初は断りを入れようとした。 「どうだい? もし君が開発した商品を購買に並べてそれが売れた場合、その売り上げの一割を君の家庭に振り込むっていうのは?」    それはとても魅力的な相談だった。  少しでも両親の負担を減らせるならばと思い、すべての条件を引き受けて入ることにしたが、私にも弱点があり、それは、目の前で食べる人の好みに合わせて料理をつくるのはできても、万人受けする料理は苦手なのだ。  散々迷ったあげく、一つの結論にたどり着く、それは『世界の漬物紀行』と題されたテーマで、世界中の珍しい漬物をパンに挟んで提供する画期的なアイディアを。    すぐに製品化に着手し、副長の協力もあって製品化の目途がついていざ、販売を開始したが、一向に売れない。  初日二十個製造したが、二十個全て売れ残って戻ってきた。  悔しかった。  次の日は十個に減らしてお店に置いたが、昼休みに購買を覗くと、数は変わらず売れ残ったまま。  肩を落として放課後、この商品の販売をいったん取りやめようとしたとき、売上伝票がこちらに手渡され、それをみたとき、自分の目を疑った。  「え……一個売れたの?」  信じられない。  次の日は念のため五個販売すると、また一個だけ売れた。  きっと同じ人が買ってくれていると思って、次の日は購買の担当だったので、それを見定めるべく注意していると。 「これください」 「はい、ありが――‼」    彼が手に持っていたのは、私が開発した漬物パン、百円を受け取り手渡すと。 「これ、凄く美味しいですよね」  少しだけ笑顔になったその顔を私は絶対忘れない、今まで人の好みに合わせて作ってきたが、初めて彼が私の作った料理に合ったのだ。 「ありがとうございます!」  丁寧に頭を下げて忙しい昼の購買の音に紛れて彼は姿をけした。  その日の午後からは授業が頭に入らないほど、彼のことを考えるようになり、そしてその気持ちは日増しに膨れるばかり、ついには廊下ですれ違ったりするだけで、鼓動が早くなる。 「どうかしましたか委員長、心ここにあらずって感じがしますが」    副長が声をかけてきてくれる。   「ねぇ、その人のことばかり考えて、頭に思い浮かべるだけで胸が苦しくなるってこれってやっぱりあれよね」 「え? それってつまりナツメ様が私に恋をしていると⁉ あぁ、私のこの切なる想いがようやく実るときが」 「あんた、なにバカ言ってんのよ。 でもやっぱりこれが恋かぁ、名前も知らないんだよね」 「なぁにぃぃぃい⁉ こんな可愛さの頂点に君臨し、強さも併せ持つ、私の女神様が惹かれるヤツですか? そやつを私は今から葬ってきます」  本気で行こうとする彼女を止めて軽く説教するが、それを終えるとまたなんとも言えない、苦しい気持ちがわきあがってくる。 「あのですね、委員長。 あなたは先ほども言いましたが見た目完璧美少女でこの学園の十二神将のおひとりです。 必ず男はあなたの虜になります」 「そんな簡単なはずないでしょ、でも男性を射止めるには、まずは胃袋からって言うからね!」    その意見を聞いた彼女は、お見事と言わんばかりに拍手をおくり、私も彼のためだけに、彼のためにあのパンを作ろうときめた。  それからは、毎日一個だけ、名前も知らない、同じ学年の彼に食べてほしくて、毎日毎日手作りを購買に届けた。  しかし、二年に進級し間もないころ、教室が一緒になれればと思っていたけれど、それは叶わず、名前といつもご飯を食べている場所は確認した。  どうやって近づこうかとモヤモヤしているうちに、彼の周りに変な女性の影がチラつくようになる。    そして、気がつけば生徒会室に呼ばれ、彼らにルールを教えてくれと頼まれる。  正直、これはチャンスだと思った。  この機会に彼に接触できるのではないだろうか? そんな淡い気持ちをもって名乗りを上げようとしたが、最初をあの筋肉バカに越されてしまった。    どうやら、彼も私たちと同じで只者ではないらしく、女性もずいぶん腕が立つと聞かされる。  すぐに私の番がきた。  しかし、日に日にあの女の目が私に似てきているような錯覚をうけており、これはまさかと思ったが、どこを探らせても情報は出てこない。  ならば、この機会をフルに活用するしかない、チャンスは今しかないのだ。  あのジュースを急いで作り上げ、屋上に向かわないようにパンもつくらなかった。  悲しむ顔をみるのは辛いが、仕方がないと言い聞かせ作戦に移る。  そして、念願の対面も潰され、その後奇跡的にバス停で巡り合ったとき、変な態度が気にかかり、癪だが生徒会の風紀委員会を利用して調査してもらうと、なんとあの女は彼の許嫁と判明した。  「うそ、でしょ……」  しかし、希望は残されている。  彼はどうやら、あまり乗り気ではないようで、最初から私のモノにしてしまえばよい、そう考えていたが、それを確実にするために、薬の量を調節したジュースを調合し、飲ませることに成功した。  それでも、私は負けた。  完膚なきまでに、でもすっきりしていく私の心が、そうか、彼女のように真っすぐに貫く、だったら私もそれができるかもしれない。  薄れゆく意識の底で、新たな決意が芽生えた。  
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