閑話 胃袋攻略戦

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 困ったことと良いこと、どちらから聞きたいって聞かれると、まず最初に悪いほうから聞く派なのだが、その悪い知らせは、今後一切購買であの漬物パンは販売されないこと。  では、逆に良い知らせとは? それは、その漬物パンがなぜか目の前にあること。  なぜこうなったのか、そのいきさつはこうだ。    いつものように屋上で一人で食べていると、この時期にしては珍しく扉が開き、そこから入ってきたのは、先日俺達と闘った土岐 ナツメであった。  一応罠の準備をしようとしたが、なぜかキョロキョロとあたりを見回して、こちらを見つけると、下をむき手を後ろにまわしながらこちらに歩いてくる。 「えっと、土岐さん? 傷とか大丈夫だった?」 「ナツメでいいよ、土岐って苗字なんか嫌で、それに傷はあるけど、跡は残らないって」 「そう、ならよかったけど、今日はどうしてここに?」 「じ、実は、既に知っていると思うだろうが、私が考えた漬物パンなのだが、今後は発売されなくなってな」 「え⁉ あの世紀の発明をしたのナ……、 ナツメだったの?」    ここ最近で女性を下の名前で呼ぶのは三人目(妹を含め)だが、やはり最初はどこかくすぐったい。 「そ、そうなんだよね! どうだ凄いだろ」 「うんうん、めっちゃすごい。」 「で、そのぉ、迷惑をかけたお詫びといってはなんだが、これを作ってきたんだよね」  そう言って後ろから差し出してきたのは、あの恋しい漬物パンでしかも新作! 今回のテーマはなんと、ロシア!?  色とりどりな漬物がぎっしりとパンに詰まっており、絶対美味しいと直感でわかる。 「そ、その、お前がどうしても食べたいっていうなら、これからも作ってきてやってもいいんだが」 「是非とも食べさせてください!」 「しょうがないなあ、そんなに欲しいなら食べてもいいぞ!」    言葉の感じと違い、嬉しそうに微笑みながらパンをこちらに渡そうとしたとき、またまた屋上のドアが勢いよく開き、そこから汐里さんが登場する。  あれ? こんな感じのシーン前もあったような? 「すとおぉぉぉぉぉっぷ! なに考えているんですか⁉ 相手はあの生徒会十二神将ですよ! また変な体になったらどうするんですか?」  既に彼女は準備万端で、刀を引き抜き殺気を抑えることもなく、こちらに向かってきている。   「はぁ? またお前? いい加減にしてくんない? このやり取り飽きた」    今度はナツメが殺気を放出しだし、どこから出したのか、またあのマグロ包丁を取り出していた。 「うぜぇんだよ、この前はちょっと油断したけど、また勝てると思うなよデカ乳」 「胸は関係ないでしょ、それより先輩から離れなさい!」  二人の間に目に見えない稲妻が走ったような気がしたが、なぜか空まで曇ってきたぞ。 「はん! お前なにか勘違いしているが、私は既に購買委員長も退いて、正式に委員会からも抜けている。 つまり、生徒会とは縁を切った状態だよ」  それは初耳で、何を考えてそうしたのだろうか。 「でも、それに何も入っていないとは限らないじゃないですか。 私は信じられません」 「あのなぁ、変なのってそりゃもちろん食材は普通だけど、その愛情は入れて……」  食材は普通だがの後のセリフが尻すぼみになって、うまく聞き取れないが、あまり危害を加えようとしている感じがしない。  それに、早くあのパンを食べたいという欲望があり、俺は立ち上がると彼女がもっているパンを手から強奪すると、丁寧にくるまれているラップを剥いで躊躇なく食べた。 「え、えええ!」    驚く汐里さん、この前の戦闘のとき最後は俺らの症状を取り除いてくれたりと、どこか優しさを感じれたので、俺はまったく疑っていない。 「凄く美味しい」  口を通り喉を通過したとき、なんともいえない幸福に満たされ頬が緩む。 「そ、そうか! 美味しいか、よかった」  満面の笑みで笑う彼女は、姿も相まってかとても可愛らしく、いつもこうしていたらいいのにと思ってしまう。  バキッ。  何かが壊れる音が聞こえ、音がした場所を見ると殺気を今まで以上に放出している汐里さん。  彼女の足元のコンクリの床が割れ、足取り重くこちらに向かって歩いてくる。  日根野以外にもコンクリ壊せる人がいるなんて驚きである。 「なぁに、デレデレしてんすか。 つい先日まで敵だったんですよ。 フラフラと食べ物に釣られて、そんなに食べたいなら、私も先輩に一撃食べさせてあげますよ」  全身に鳥肌が立ち、それに加えて嫌な汗が全身をつたいだす。 「え? ちょっと待って言葉おかしくない⁉ それにもう彼女は敵の組織を抜けたんだよ。」 「問答無用‼」  刀を峰打ちでないほうで構え、俺めがけて攻撃してくる。  ガキンッ!  もうだめかと思って目を閉じたが、痛みは感じず、不思議に思って目を開けると、そこには包丁で汐里さんの刀を受け流したナツメの姿があった。 「見苦しいなぁ、悔しかったらお前もなにか作ってみろ」  弾かれた刀をまた構えなおすと、こちらを見据えて鞘に納める。 「わかりました。 では明日、ここで先輩に料理を作ってきてどっちが美味しいか勝負しましょう」      
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