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目の前に現れたのは、それはそれは見事な桃尻。
ぷるんと健康的な形に、色艶も完璧なうえに、それが左右に揺れている。
よくよく観察すると、後姿が女性であるのは把握した、しかもエプロンを着ており、裸エプロン状態であった。
むしろこれで男性だったら、ある一定の需要を満たしてしまう展開が訪れる可能性を考慮しなければならない。
そして、その後ろ姿には見覚えがあり、あの流れるようなストレートな髪質に薄く紫がかった色合いのロングヘア、少し音程の外れた鼻歌を俺は幼いころからずっと知っている。
この裸エプロンの主は。
「あれ? 兄さん帰っていたんですか?」
振り向いた女性は俺の妹の慈で歳は一つ下、俺の記憶が正しければ彼女が小学生のころ一緒にお風呂に入って以来の、裸に近い状態を見てしまったが、自慢ではないが物凄くスタイルがよい。
髪の毛と同じ色の瞳に、本当に血が繋がっているのか怪しまれるほど整った顔立ちと、白い肌に引き締まった足。
唯一の妹が気にしているのは、エプロンの下にはおそらくなにも着ていないが、凝視してようやく膨らみが確認できる程度の胸を特別いつも気にしている。
しかし、俺はそれを気にするなと声を大にしていいたい。
それが好きな男性はきっと存在する。 むしろナツメよりありそうだが、それを本人の目の前で行ったら殺されそうなので、秘めておこう。
「慈、帰っていたのか? ちょっとその姿も予想外すぎて声かけれなかった」
我が妹ながら、目のやり場に困る。
トコトコと歩いてきて、少し不機嫌そうな顔をしながら俺から鞄を取り、下から覗き込んできた。
「今日の朝にメールが届くように送信したと思うのですが? まさか読んでないの?」
「ごめん! 朝忙しくて確認してなかったんだ。 それと、その、なんていうのかな、その格好なんとかならない?」
「あら? 兄さんたらもしかして妹の裸に欲情しています?」
な、なんて挑発的な! 更になんだその潤んだ感じの表情は、久しぶりに会ったが以前のような感じではない、もしかすると妹の姿を借りた別の人物なのではないのか?
「冗談だろ?」
「冗談だと思いますか?」
いかん、脳内の四割がピンク色に侵食されつつある。 このままではいずれ俺の理性というなのダムが決壊してしまう、そもそも、実妹の時点でそんな対象にはみれない。
しかし、なんだこの破壊力は、これが妹属性という高難易度魔法なのか!? こうなった場合に最適な行動は、そう! あの言葉を脳内で無限ループするのがベスト。
『唵 吠室囉縛拏野 莎賀』
『唵 吠室囉縛拏野 莎賀』
『唵 吠室囉縛拏野 莎賀』
ああ、心に巣くう悪しき心に打ち勝てそうだ……。
しかし、妹はここぞとばかり追撃をこころみてくる。
次第に体に近づいてきて、腕を絡ませようとしたときに、台所で何かが吹きこぼれる音がした。
「チッ」
あれ? いま舌打ちが聞こえましたが、気のせいですよね?
「兄さん、少し待っててくださいね」
彼女は急いで台所に行き、鍋を確認している。
俺はその隙に自分の部屋へ戻るなり、急いでパソコンのメールをチェックすると、たしかに届いているが、急すぎるだろ! いつもいつも、母親に似て連絡は直前にしかよこさないうえに、サプライズが大好きときた。
サプライズにも限度があるだろ、普通に考えて裸エプロンなんて考えないし、そもそも俺の知っている妹はそんなキャラじゃない、むしろ俺を毛嫌いしていたようにも思えた。
「兄さん! できましたよ!」
下の階から慈が呼ぶ声が聞こえる。
もし、まだ裸エプロンであった場合を考慮して常に脳内に毘沙門天真言を唱えながら行くとしよう。
階段を一段降りるたびに俺は別の境地へと行けるようなきがしてくる。
戦の神様、どうかわたしをお守りください。
下に到着すると、慈は未だに裸のままであるが、俺は細眼で確認しながら、背中から近寄るとその体に学園で使っているセーターを羽織らせた。
「そこは、後ろから抱きしめてくれるんじゃないのですか?」
「いや、それ完全にアウトでしょ」
不満そうな横顔でみそ汁を二人分わけているが、俺のセーターの首元あたりに小さな鼻を近づける。
「まぁ、これも悪くないですね――兄さんは座っていてください、今持っていくので」
コロコロと表情を変えるのは、女性ならではと思うが、これほど感情が豊であったのかと思う。
そして、俺はなにか重大なことを忘れているような気がするが、なんだろう? それに大変申し訳ないが、今はお腹が空いていない。
先ほど汐里さんのお弁当を食べたばかりで、全然空腹には程遠く、妹の料理が全部入る可能性は低いが、せっかく帰国して裸エプロンまでして作ってくれたのだ。
残すことはできない、それに妹の手料理というのがとても楽しみなのは事実であった。
何か忘れているけど、この心に引っかかるモヤモヤとした感覚はいったいなんなのだ?
「お待たせしました」
「おう、悪いね、帰国早々に作ってもらって」
「気にしないでください、私の料理の腕前が以前より上達しているのを早く知らせたかったので」
「楽しみだな、いただきます」
出されたのは、白米にみそ汁、それに旬ではないが秋刀魚の塩焼きに、大根おろしか、これは鉄板中の鉄板ではないか、とても美味しそうなので、まずはみそ汁から。
味噌の自然発酵した良い香りが……あれ? しない。
とりあえず、一口いただく。
「うっ‼」
なんだ、これは……! どうやったらみそ汁が甘くなるんだよ。
使っている食材って豆腐とネギに味噌と出汁だけなのに、なぜ甘い。
まあ、きっと和風出汁を砂糖と間違えた的な感じだろう、気を取り直して程よく焼けている秋刀魚に箸をのばした。
秋刀魚の綺麗に焼けた皮を貫通し……? おかしい、パリっとした皮の次にはふっくらとした感触がくるはずなのに、なぜかゴリっとした感触が箸から伝わってきた。
「なんだと?」
それは信じられない光景だった。 程よく焼けた皮の下がなぜか身が黒く焼け焦げている。
いうなれば【炭】である。
器用すぎるだろ! 外はパリっと中は焦げっとなんて、誰ができるねん!
「どうかした?」
俺のセーターを大事そうにエプロンの上から着ている妹。 萌え袖なのはよいが、この料理に関してはかなりレッドゾーンである。
それでも、俺は残すわけにはいかない、大切な慈が作ってくれたこの料理を完食するのが、やはり兄としての義務ではないだろうか。
「いや、美味しそうだなぁ、って思って」
この答えを聞いて妹はとても満足気にこちらを見つめながら、お茶をついでくれた。
ええい! 毘沙門天よ我をお守りくだされ!
まずは、秋刀魚を頭から食べる、息をついてはだめだ、一気に食べる。
すかさず、焦げた匂いと乾いた口を潤すために大根おろしを投入するが、これもトラップか⁉
大根おろしって難しいか? おろし器で擦るだけだろ? なぜこれほど口の中で俺を苦しめる。
この大根おろし猛烈に臭い。
例えるならば、一週間放置した生ごみのゴミ箱の臭いがする。
既に凶器と言っても差し支えない、これを飲み込むためにはご飯だ、ご飯なら絶対失敗しない。
ご飯を大量に口に無理やり押し込む、そして流し込んでいくが、今まで生ごみの腐乱臭が支配していた口の中がなぜかヌルヌルとぬめりだし、フローラルな香りが鼻をぬけていく。
これの香りを俺は毎日嗅いでいる。
台所の食器を洗う洗剤であり、これを使ってお米を洗ったのだろう。
あぁ、目の前では俺がモリモリ食べるようにかし写ってないのか、満面の笑みを浮かべるマイ シスターよ。
お兄ちゃん、無理だった。 許しておくれ。
そうして、俺の意識は途絶えていく、そんな中一瞬ではあるが、毘沙門天が現れ俺に何を伝えてきた。
『どんまい♪』
もう、ゴールしてもいいよね……?
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