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ここはどこだ? 目の前には燃えている車に、俺に手を差し伸べてくる女の子、あれ……? この子どこかで見たような。
「……」
目が覚めた。
体中が重い、今まで夢を見ていたように思えたが、どんな内容だったのか思い出せない。
今の自分が置かれている状況は把握している。
口の中にほのかに残っている洗剤の香りがそれを鮮明に思い出させてくれた。
「生きているか」
心地よい自分のベッドの中にいるのを確認し、時計で時刻を確認すると、すでに深夜の一時を過ぎている。
ゴワゴワした髪が気持ち悪く、シャワーだけでも浴びようと思い部屋を出て階段をおりていく。
妹の料理でまさか失神するとは思わなかったが、給湯器のスイッチを入れて服を脱ぐとシャワーを浴びた。
来る途中、彼女の部屋の前を通りかかったが、気配がないので寝ているとは思うが、急に倒れた俺をどうやって部屋まで運んでくれたのだろうか、重かったと思うが頑張ってくれた。
そして、心に誓う。
もう二度と台所には立たせないと。
***
私に気を使いながら部屋を出ていく兄さん、急に倒れたときはびっくりしたけど、部屋まで運んだとき体が密着し、私に体を預けてくれているような重みが、幸せであると感じた。
今まで兄さんを避けていたわけではない。
でも、普段から一緒にいるのに緊張してまともに会話もできずにいた。
あの日以来、私は兄さんを慕っている。
本人は覚えていないだろうが、私はしっかりと覚えていて、彼が咄嗟に助けてくれなければ私は生きていなかったであろう。
下から給湯器の音が聞こえてくる。
今すぐにでも飛び込んでいきたい気持ちを堪えて朝をむかえようと思う。
今日の晩御飯は我ながらよくできたと思う。 むしろなぜ今まで両親は私に料理をさせてくれなかったのかがわからない。
そして、私の心の枷を解き放ったのは言うまでもなく、あの出来事。
兄さんに許嫁がいると聞かされたのが五日前、一瞬で頭の中が白くなっていくのがわかった。
本当の兄妹で我慢するつもりだったのに、いざ事実を母親から告げられると体は自然と日本を目指していた。
兄さんは最強の盾、お嫁さんはそれに見合うだけの矛でなければならない。
だから、私がずっと一緒にいたい、この気持ちを殺したままでは絶対後悔してしまう。
ならば、彼を支える存在にならなければならない、そのためには自分を殺していてはダメなのだ。
「兄さん――絶対離さない」
もてる全ての力を使って、彼の刃に私はなりたい。
「このお弁当箱、兄さんの趣味じゃないなぁ……誰だろう? 許嫁って人のかな? それとも別? 誰とか関係なく泥棒猫さんは痛い目みないとわからないもんね」
ベッドの上には、兄の鞄から取り出したお弁当箱が投げ出されている。
悪い虫は、早めに退治しないと彼を膿ませてしまう。
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