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第一章 二幕 押忍! 筋肉応援団現る。
先日、蜂谷さんに襲われていらい変わったことが二つある。
それは、ふとした切っ掛けで視界の端っこに、彼女の姿を見かけることが多くなり、目があうとなぜか隠れてしまうが、ときたま胸だけが隠しきれていないときがあった。
それはそれで眼福なのでかまわない、だが、あからさまに隠れられているのは、やはり自分は嫌われているのではないだろうかと思ってしまう。
一応両親に許嫁の件を聞いてみると、近々に帰ってくるそうなので、詳しくはその時にと伝えられた。
実際のところ、うちの親がどこにいるのかを俺は知らないでいる。
とりあえず、罠が無い世界は考えられないと言っては、日本中または世界中に暇をみつけて罠を仕掛けに出向いてる。
その気持ちよくわかる。
しかも、罠の発動条件は仕掛けた本人が行うようになっているので、俺が親の罠を使うのは不可能であり、何回か使おうと努力したが、もちろん発動もしなかったし、そのたびに親にキツク叱られていた。
そして、もう一つ変わったことは、なぜかトイレや購買に漬物パンシリーズを買いに行くときなど、一人になるタイミングで、周囲に物凄い筋肉の気配を感じるようになっていた。
今朝も授業が始まる前に、トイレにいくと両脇を筋肉隆々な二人組に囲まれて、まだ肌寒いのにも関わらず夏服に、はち切れんばかりの筋肉を逐一ぴくぴくと動かしながら、アピールしてくる。
数学の授業の最中も、教科書を開くとなぜか筋トレの方法というなの本にすり替わっていたり、自動販売機で炭酸飲料を購入したはずなのに、プロテインが出てきたりと、いよいよ俺の脳内が幻覚をみせているのではないのかと思い始めてきた。
そんなことが三日ほど続いたかと思うと、下駄箱にレモン色の紙に丸みを帯びた可愛らしい文字で、【今日の放課後に屋上でお待ちしております】と書かれている手紙が入っている。
これは、間違いなく女性からの手紙であろう、差出人を確認しようとしたが、名前の記載はなかった。
すると、なにやら背後に殺気を感じて振り返ると、階段で友だちと教室に向かおうとしている蜂谷さんの姿をみつけた。
彼女は一瞬こちらを見ると、冷たい表情とあからさまに殺気だった眼をこちらに向けてくる。
「はぁ……。 そんな嫌わなくてもいいじゃん。」
ため息をつくが、右手にはしっかりと手紙が握られており、それをカバンに隠すようにしまい込むと、足取り軽く教室に向かう。
それからの時間はいつも以上に流れるスピードが遅く感じられ、授業内容は常に右から左状態で、板書もままならない、お昼休みになるころには逆に緊張してきてお昼ご飯は喉を通らなかった。
なんて繊細な生物なのだろうかと思ってしまったが、人生初の告白される側なのだから致し方無いと自分に言い聞かせて放課後を待つことにする。
そして、いよいよお待ちかねの放課後になり、いつもご飯を食べて慣れ親しんでいる屋上までの階段を駆けていく。
待ち人はもう来ているのか、扉が少しだけ開いており、俺はその扉をゆっくりと押し開けると、そこに待っていたのは信じられない光景だった。
そこは筋肉の世界で、横三列に縦四列の綺麗な陣形に、腕組みをしたマッチョなメンズが屋上に立っている。
俺は顔を彼らにむけつつも、横目で女性の姿を確認するが、どこにも見当たらない。
もし自分がこれから告白するのに、こんなむさ苦しい人たちがいたら、雰囲気もへったくれもない。
ここは一旦撤退するのが得策と考えて、後ろに下がろうとした瞬間、マッチョ軍団の真ん中にいる、丸形の学生帽をかぶり、口にはぺんぺん草のようなモノを咥えて、ひときわ筋肉が盛り上がっている人物がこちらに声をかけてきた。
「待て――‼ 手紙を読んできたのであろう」
なぜそれを知っているのか、悪寒が全身を駆け巡り、額に変な汗がにじみ出てくる。
「あの手紙の主は、我よ‼」
そう言い放つと、フロント・ダブル・バイセップスのポーズをとると、上腕二頭筋の力で制服が引きちぎられ、そこからは見事な筋肉が現れる。
衝撃的な真実は、その引きちぎられた制服でもモリモリの筋肉でもなく、あの可愛らしい文字が、よもやこのような漢の字だとは、ちっとも思わなかった。
俺はその場に崩れ落ちると、自分の愚かさを嘆き、その衝撃で遠い昔の記憶が呼び覚まされる。
昔、同級生の女の子に「あなたって男性にモテそうね」と言われたが、まさか本当にそうなるとは思わなかった。
そう思っていると、俺の背後で扉が勢いよく開き、蜂谷さんが現れる。
「ちょっと! なに手紙もらってノコノコ屋上に来るんですか⁉」
その手には日本刀が握られており、殺意がヒシヒシと伝わってくるが、周りの光景を見渡し三回ほど素早く瞬きを繰り返すと、状況を理解できていないようで、こちらに説明を求めるような眼差しを向けてくる。
「いや、こっちが聞きたいくらいだよ」
説明を求めようと正面の男……いや、漢を見つめると、なぜか頬を赤らめるが、そんな演出いらないので、早急になぜ呼びつけたのかを問いただしたい。
「よせ、俺の筋肉に見惚れるのはわかるが、そんなに見つめるな、照れるでわないか」
「いや、いや、それはないので安心してください、それよりこの手紙はなんなんですか?」
「笑止‼ お前にはここ数日の間幾度もチャンスを与えたにも関わらず、ちっとも筋トレを行う様子がうかがえない、よってこの日根野 真栖留が直々にその貧弱なボディを鍛えなおしてやる」
そう言いながら、綺麗に整った歯をこちらに見せて微笑むが、一切理解できないでいる。
「日根野って、もしかしてBクラスの日根野くん⁉」
後ろにいる彼女は、なぜか驚きを隠せないでおり、いったい何がおこっているのか。
「おうよ、久しいな蜂谷」
「久しいって、一応同じ学年だからどこかではすれ違っていると思うけど、私の知っている日根野くんとは全然違うんですが」
まてまてまて! 今、なんと言った? 同じ学年? では、この目の前にいる人は俺の後輩ということなのか?
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