第一章 二幕 押忍! 筋肉応援団現る。

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「いかにも、わしは一年Bクラスの日根野であり、この稲葉山学園応援委員会委員長でもある」  嘘だろ、全然年下にみえないうえに、いきなり一年生で委員長に抜擢って、どう考えてもチート過ぎるのではないかと思うが、後ろに控えているメンツを見ると、同学年や先輩の見知った顔が見受けられ、冗談を言っているのではなさそうだ。 「でも、日根野くんってあの日根野くんだよね?」 「何度も言わせるな、この学園で日根野 真栖瑠といえば、我をおいてほかにはおらぬ」  先ほどから、彼女がなぜか疑いのまなざしで彼を見つめていると、少し気になることがある。  それと、先ほどから後ろに控えている筋肉軍団の筋肉が少しではあるが、ピクピクと規則正しく動き出している。  しかし、それがなにを意味するのか理解できない。   「それで、俺を呼び出した理由はなんだ?」 「愚問! おぬしが筋トレに目覚め、この崇高な筋肉の魅力に気が付いておれば、見逃したが、どう足掻いても叶わなそうでな、やはり当初の目的どおり、おぬしらにこの学園のルールを叩きこんでやる」  ルール? この学園になんのルールがあるっていうのだろうか?  ルールブックに記載されている規則事項に関しては、ありきたりな感じがするうえに、他の学園と比べても、こちらはわりと自由な感じがあり、それが売りと学園長が集会のときに言っていた記憶もあった。 「おぬしらは疑問に思わぬのか? この学園という名のコミュニティーにおいて、なぜ皆がまとまって生活できているのかを」  目の前の筋肉が大きく息を吸い込んで、ギラリと睨みつけてくる。 「素行が悪い生徒も見当たらず、部活動も熱心なうえに学力もソコソコときている。こんな理想的な空間はなぜ維持されているのか? それを考えたときはないか?」  こいつは何を言っているのか、しかし、言われてみると、この学園では漫画やドラマの世界でおこりそうな喧嘩や、いじめ問題が聞こえてこない。  それは俺があまり話題に詳しくないという点も否めないが、つまり誰かによって抑制されていると、こいつらは伝えたいのではないだろうか。 「答えは極めて単純、この学園は我々のような存在により統治し管理されているからである! そして、統治にあたりどんな奴でもねじ伏せることができるだけの武力をもった特殊な生徒を集め、結成されているのが、現生徒会長率いる十二神将と呼ばれる部隊だ」  なんだその物騒な部隊名は、十二神将といえば如来を守護する武神の総称として知られているが、こいつらは、その生徒会長を中心とした十二人の変態集団の集まりということで間違いないと判断できる。   「ちょっと待って! 意味わからないとこ言ってないで、もっとわかりやすく説明してくれない? それに日根野くんさっき、おまえら(・・・・)って言わなかった? もしかして、私も含まれているの?」  蜂谷さんが刀の柄になぜか右手を添えているが、どうやら彼女も日根野くんの後ろにいるマッスル軍団の動きに気が付いたようだ。  俺には感じられない空気の「何か」も感じとっているように見える。 「理解が早くて助かる……。 おぬしらは半端でどうしようもない、そんなもやしのような筋肉で、会長が敬愛するこの学園で他の生徒とは一線を画す行動をとった。この学園の歯車としてふさわしくない、ふさわしくない部品は、修理が必要なのだよ」  おっと、これはいよいよヤバイのではないだろうか、ついに後ろのメンバーが隠すことなく胸筋を動かしているが、あれは準備運動のようなものなのか。 「個人的な恨みはないが、我を変えてくださった会長のご命令とあれば、一番槍喜んで引き受けさせていただく! それ!! きんにっくうううう!」  意味不明な号令とサイド・チェスト(横向きになって胸筋を強調する)のポーズをとると、後方に控えていた軍団がこちらに向かって一斉に襲い掛かってきた。   十人以上の筋肉メンズ軍団が、走りだしてくるが、明らかに蜂谷さんへ向かう人数が少ないのは、これは俺が弱そうだからか⁉ それとも単純に女性だからなのか、そんな心配をしている暇はない、すでに彼らは数メートル先まで来ていて、筋肉の艶も見えだしている。  俺はとっさに後ろに下がるが、逆に彼女は前に出ると刀を引き抜き、居合の横一刀を繰り出すと、その場で三人が倒れた。 「嘘……。 もしかして殺した?」 「そんなバカみたいなことしませんよ、峰打ち(みねう)です」  ニコリと微笑みながらこちらを振り向く彼女の足元には、腹を抱えてのたうち回っている男子生徒、これほどまで彼女が強いなら、ここは任せてもよいのではないかと他力本願状態で思ってしまう。  そして、第二陣の肉壁が迫ると彼女は呼吸を整えて、その壁に向かって走り出す。 「はぁぁぁああああああっ!」  流れるような刀さばきに、一刀ごとに倒れていく敵の姿をみると少しだけ同情してしまう。  それほど彼女は圧倒的に強く、美しかった。  残ったのは既に三名だけになり、一人はずっと応援旗を直立不動で持っている。  日根野くんは横目で隣の男子に視線を送ると、彼は生唾を呑みこんで勢いをつけて走り出し、刀で切られてもそのまま突進するつもりのようだ。  これは刺し違えても、しとめる覚悟の特攻であるが、そんな彼の行動も無残に散ることになる。  蜂谷さんは刀のふくら(先端)を背側に構え、柄頭(柄の端)の部分で、敵の脳天を一撃で貫いた。  それを見事にくらった彼は、白目をむきながらゆっくりと後ろに倒れこみ、ぴくぴくと筋肉を痙攣させながら気絶している。   「もうお終い? 十二神将って名ばかりで、別にたいしたことないのね」  彼女はあまり行わない峰打ちという条件と、普通ならば殺傷能力の高い先端で今の技を行うはずなのに、あえてリーチも短く、普段行わない攻撃までしている。  それは蜂谷さんにとってはハンデにしかなりえないのにも関わらず、敵を圧倒しており、よくよく考えるとどうやって自分は彼女から身を守ったのか不思議でならない。   「ふむ、よく鍛えているな……。 無駄にデカい乳ばかり目立っておったが、そうでもないようだな」  そのセリフに顔を赤くしながら両手で胸を隠すが、隠しきれない破壊力なので、逆に隠すと目立つことを彼女はまだ知りえない。   「委員長殿、そろそろ頃合いかと思われます」  旗を持っていた男子が唐突に、日根野くんに語り掛けて、旗をゆっくりと下ろすと、布の部分を取り外し丁寧に折りたたみ、それを背中に背負った。   「いつもエンジンがかかるのが遅いが、まあ仕方がない、行けおぬしには蜂谷を任せる」 「了解‼」  旗の棒を右手にもち、なぜか体中から湯気のようなものが浮かび上がってきている。  もしかすると変な魔法でも使っているのではないだろうか? 「こやつは少しばかり変わった体質でな、体中に乳酸が溜まると逆にその乳酸をエネルギーに変えることができる。 それゆえ、最初から旗を持たせ体中に乳酸をためておいたのよ‼」  フシュ―と、口からも湯気を発し軽々と棒を振り回しながら彼女に突撃する。  それでも蜂谷さんは冷静に棒を刀で受け流そうとした。  しかし、一瞬表情を変えて一気に横へ回避しる。 「チッ、第六感とでもいうのか、よく気が付いた。もし、そのまま刀で受けていたら粉々にできたのにな」 「その棒、空気を切るときの音が違う――‼ それ中身が空洞の安いタイプじゃないでしょ」 「その通り、五月の風の強い日でも、鯉のぼりなどを天まで上げるために、折れることのない棒よ、当たれば良くて骨折といった具合だがな」    それは、完全に殺傷目的ではないか⁉ しかも中身もぎっちりに詰まったあの長さの武器を軽々と扱うなんて、どんな人間だよ。
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