第一章 二幕 押忍! 筋肉応援団現る。

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 それからの攻防は一進一退の状態が続いているが、刀で受け流すことができない彼女が若干押されているように思う。  それでも息に乱れは感じられない。  逆に、敵側が少しではあるが、動きにキレが薄れつつあり、もしかするとこれで決まるのではないかと思ってしまう。  それを傍観していた日根野くんは、それを察知したのか、あっさりと退()がるように命じた。 「埒が明かない、我が二人を相手してやろうではないか」    腰から水筒のようなモノを取り出すと、一気に飲み干し水筒を紙コップを握り潰すかのような簡単さで握りつぶすと、それを優しくポケットにしまい込んだ。   「では、いくぞ……」  そう言ってアブドミナル・アンド・サイ(腹筋と下半身をアピール)のポーズをとると、筋肉が更に膨れ上がり、着ていた制服は破けた。  あらわになった肉体を例えるならば、純白なふんどしをした巨大な岩の塊と表現しても、過言ではない。  その岩が一気に踏み込むと、屋上の地面であるコンクリートが砕け、ちょうど彼の足型に破損する。  そんな誇張表現は、漫画の世界だけの表現と思っていた。  しかし、どうやらそうでもないようで、俺は急いで前回同様に仕掛けてある糸の罠を発動させるが、彼は一向に止まる気配がない。  確かに俺の罠は発動したにもかかわらず、それが通じなかった。 「バカな!」  身の危険を感じ、慌てて後方にジャンプすると、そこに分厚い腕がコンクリートに突き刺り、それをゆっくりと抜き取ると、こちらを再度にらみつける。 「最後通告だ、もしこれから会長の元、普段通りの生活に戻り、筋肉を常に鍛えるならば見逃してやる」  もともと普段通りの生活を求めているから、前半は問題ないが、後半はイヤである。 「はん、そんなウソで固められた肉体でなに威張ってんのよ。心底幻滅したからね」 「なんだと?」 「私だって常日頃から鍛えているけど、あなたのその身体は違う、けっして努力して築き上げられた宝ではない!」 「そんな戯言をよくぬけぬけと、まずは蜂谷!! 貴様から修理してやろう!」  標的を俺から彼女に変えた日根野くん――いや、もう日根野でいいでしょ、なんか「くん」って感じがまったくしなかった。  俺から標的を彼女に変えた日根野は、猛牛のようなタックルを彼女に繰り出すが、それを余裕でかわすと背中に向かって、縦一文字に切りつける。    それをまとに受けた彼は少し身じろぎすると、表情を変えないまま振り返る。 「まだ、そんなおもちゃに頼っているのか? 今ので理解したであろう、貴様の(やいば)は我には通らない」  よく彼女をみると、今まで峰打ちだったが、今はちゃんとした持ち方に変わっている。  先ほどの攻撃は、彼を斬り倒すために放った一撃だったというとこである。  しかし、その刃をもってしても彼の肉体に傷を負わせることはできず、少しだけバランスを崩させることしかできないでいる。 「そんな! もはや人間じゃないだろ!」  蜂谷さんは、もう一度攻撃しようと構えると、一気に地面を蹴りだし一瞬で懐に入りこみながら、下から上にむかって斬りこむ。  今度は後ろに倒れこむが、すぐに起きあがり体に付着した土埃をパンパンと手で払っている。  その体には傷らしい傷は見当たらない。 「斬ったときの感覚が岩のようね、しかも瞬間的に斬られる部分に筋肉を集めているのかしら?」  アホな、そんなことできるわけがないが、もはや何がおこっても不思議ではない状況なので、このままでは彼女が危険に晒されてしまう可能性がある。 「蜂谷よ……。 きさまの刃しかと我に届いているぞ、されど残念ながら鋼の肉体には通じぬ!」    少しだけ、顔色が不安な感じに包まれる。  あれだけ息があがらない彼女であったが、呼吸が少しだけ乱れており、この戦闘がいかに過酷なものなのかがうかがえた。  そして、ゆっくりと刀を鞘に納めると、呼吸を整えて居合の構えをとり一気に集中力を高めていく。  日根野はそれをみると目を光らせて、拳をゴリゴリと鳴らしタックルの準備にはいった。  俺はイヤな予感の香りがしだし、彼がこちらに向かって走り出すと同時に彼女のもとに駆け寄って、アクリルパネル壁の罠を発動させる。  運よく蜂谷さんが罠の発動によいポジションにいてくれて助かった。  このアクリルパネル壁は水族館などで使用されており、強い水圧にも耐えられる仕組みなので、いかに彼が強くなっても、この壁を破壊まではできなと思っているが、少しは不安がのこるものの今はこれに頼るしかない。 「ちょっと、先輩なにするんですか⁉」 「いいから、なにか嫌な予感がする」  目の前に透明な壁が現れると同時に、地面を揺らす衝撃が辺り一面を駆け抜けた。  弾かれた彼は、一瞬なにが起こったのか理解できないでいたが、即座に分厚い拳を透明な壁に向かって繰り出してくる。  そのたびにアクリルパネル壁は歪み耳に残る音が響き始めた。 「この後どうするんですか?」 「とりあえず、逃げる?」 「それは絶対ダメです」  やっぱり? 彼女の辞書にはどうやら敵前逃亡という文字はないようで、この状況をどのように打破すればよいのか⁉  いまここであの罠を発動できるかと思い、空を確認したが発動条件を満たしていなかった。  そして、とうとう目の前の空間が割れだす。  強大な水圧に耐えれるはずの壁にヒビが入りだし、その一点めがけて彼は突きを更に強めて攻撃をしだした。
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