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筋肉軍団!のその後
「千二十二――千二十三……」
一人体育館裏で腕立て伏せを繰り返す男子がいた。
額からは常に大粒の汗が流れ、貧相な体格に似合わない大きめの制服を着ながら、ひたすら筋トレを繰り替えしていた。
「い、委員長! ここにいたんですか、探しましたよ」
複数の筋肉隆々な漢たちが、その男子を取り巻き、皆が心配そうに見守っている。
「なんだ? 我はもう委員長でわない……もう関わるな」
「し、しかし! 俺たちにとって委員長って言えば日根野さんを置いて他にはいません!」
全員が頷き、一人のマッチョが飲み物を日根野に手渡し、日根野はそれを受け取ると、一気に飲み干した。
「あ、ありがたいが、我はもうお前たちが思っているような筋肉をもたない、ただの貧弱な存在だぞ……それに、お前たちを我はコマのように使ってきた。 佐々や蜂谷と闘うときも、容赦なく使い倒したんだぞ? 怨まれても仕方がない」
しかし、誰一人として首を縦に振る筋肉はいなかった。
「委員長だから、委員長になら、我々は使われてもよいと思っております! そして、我々は知っています。 あなたが努力していることを‼ あの薬を使い、最強の肉体を手に入れ我らの委員会へ来たときは、さすがに困惑いたしました」
大きく息を吸い込み響き渡る声で言い放つ。
「しかし! 薬を使わない普段、一人隠れて筋トレに励む姿を、ここにいる全員が見ております」
プルプルと震える胸筋たちの瞳に、涙が浮かび始める。
「仲間が困ったとき、あなたは先頭にたち我らを導いてくださいました。 太刀打ちできない相手が現れても、委員長なら勝てる。 絶対的な存在としてこの委員会を率いてくれておりました。だから、誰一人と欠けることなく、委員長に付いていくのです! そんなあなただから! 我らは委員長と共にこの学園を守っていくと誓ったのです!」
日根野が握っていたペットボトルが音もなく手から離れていく。
「バカなのか……こんな一年坊にこき使われて、喜ぶ変態しかいないのか⁉」
日根野が叫ぶ、それに答えるように筋肉軍団は胸筋を動かしだした。
「ふ――ふはははははは! バカだ! バカばっかりだ! 脳みそまで筋肉になったのか⁉ 待っていろ、我は必ずまた取り戻す。 こんどこそ、本当の筋肉を!」
そう言い放つと、今度は地面に寝そべると腹筋を鍛え始める。
「一、二……」
それを見ていた周りの筋肉軍団は、日根野を囲むと制服の上着を脱ぎ棄て、両腕を空高く掲げる。
「フレー! フレー! 日根野! フレフレ日根野!」
先陣をきった漢がエールを送ると、全員が一緒に日根野にエールを送る。 その声は体育館裏からでも学園中に響き渡った。
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