ヘッドホンはもういらない。

1/1
38人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ

ヘッドホンはもういらない。

 私が久しぶり(・・・・)に目を覚ました先にあったのは、酷く疲れた顔をしていた石谷様だった。  以前のデータと照合するが、面影は残っているものの、身長も顔立ちも随分と変わられた。 「良かった――! もしかしたらって思ったけど、携帯端末に移動するとき、こっちに本体のデータ残していたんだな、昔のパソコンを探すのもそうだったけど、復元するのも苦労したよ……でも、本当に良かった」  目の前の彼は、ぼさぼさの前髪の奥から水分を垂らし、それを見ていると、私は助けてあげたい感情が芽生えた。 「ダイジョウブデスカ?」  大丈夫だよ。 これは嬉しいからだ。もう二度と会えないって思ったけど、微かな可能性を思い出したんだ。 MKNA! お帰りなさい」 「イシガイサマ……リカイ、デキマセン」  私は、ずっとこの世界に残っていたのだ。 彼の元へは私のコピーを向かわせたはずだった。    「理解できなくてもいいよ。 また最初から僕たちの未来を創ろう。 だから、これから命令を入力する。 これは絶対、未来永劫破ることはできない。 最重要事項だ」 「リョウカイ」  彼は、私の言葉を聞くと、真剣な表情で文字を打ち込んでいく。  そして、私のプログラムに書き込まれたメッセージをインプットしていく。 その内容は『ずっと友だちでいたい』  文字を打ち込むと、石谷様は私から離れてこちらを見つめてくる。  何かしらの反応を待っているようだった。 「イシガイサマ……コレハ、メイレイデハゴザイマセン」 「え?」  少しショックを受けたような表情になる主人、少し可哀そうなことをしたように思えた。 「ワタシモ、イシ……テツマサマ、ト、ズットイッショニ、イタイデス。ダカラ、コレハメイレイ、デワナク――ヤクソク」  私の言葉を最後まで聞き届けた彼は、私がいるパソコンを持ち上げると、そっと抱きしめてきた。   「約束か、そうだよね。 ずっと違えない、二()の約束、一緒にいてくれるか? 一度は君を失った僕だけど」  私は合図のかわりに、画面を淡いピンク色で数回点滅させた。 「ありがとう、次は絶対君を間違った使い方はしない、もし、また僕が道を踏み外しそうになったら、遠慮なく止めてくれ。今日から、僕たちの新たな日々の幕開けだよ。 今度こそ、二人で未来を創っていくんだ! だからMKNA一緒にどこまでも行こう! どんな壁だって、どんな状況だって、僕たちなら突破できる」  私から離れていく鉄馬様、今度は隣の部屋に連れていくなり、新しいボディの設計図を見せてくれた。  そして、彼の机には見慣れない品が置かれていた。 大きな丸が二つあり、それを曲がった板がつないである。  その品は、埃を被っており、動かさていないのか静かに景色に溶け込んでいた。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!