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「お隣くーん? いるー?」
インターホンが鳴った直後、玄関扉一枚隔てて咲妃さんの声。
予想外の出来事に、腰が引ける。
すると少女はいつの間にか僕の後ろにまわっていて、背中をトン、と押した。
「──……」
振り向かずとも、その意味は分かる。僕はゆっくりとドアを開けた。
「あ、お隣くんおはよー。昨日はみっともないとこ見せてごめんね」
飛び込んでくるいつもの咲妃さんの声。そして笑顔。
昨日とは打って変わった、いつもの咲妃さんだ。
「それだけ! じゃあね」
咲妃さんが踵を返した瞬間、僕は今一度背中を押される。
「あ、咲妃さん! 待って」
「ん? どうしたの?」
「咲妃さん、今日は何か用事ありますか?」
「今日は一日ヒマだけど」
「午後から、僕と出掛けませんか?」
咲妃さんは一瞬空を仰ぎ、何か思案したかと思うとニヤッと笑う。
「デートのお誘い?」
「はい!」
「じゃあ準備してくるから、三十分くらい待ってて」
軽く手を振り去っていく後ろ姿を、呆然と見送る。
すると少女は、僕の背中に飛びついてきた。
「おにーちゃん! やったじゃん!」
背後で喜んでくれる少女から直接喜びが伝わってくるようで、僕は飛び跳ねたくなるほど嬉しくなった。
咲妃さんと二人で出掛ける事なんて、初めてではないのに。
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