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ひとしきり食べたあと、近くから順番に大道芸を見て回った。
ジャグラーが空高く投げたクラブを見上げて「首疲れるねー」と言ったり、猿回しを見て「あれが猿じゃなくて例えば狸ならまた話が変わってくるよねー」とか分福茶釜を思わせたりする咲妃さんの感想は素直じゃなくて、だからこそ僕はそれを可愛らしいと思った。
フェスというだけあって、大道芸人の数は相当で、公園内を一周する頃には何時間か経過していた。
騒いで、笑って、腕にはついさっきバルーンアートの大道芸人にもらった犬の抱きつき人形のような風船を巻きつけながら「疲れたねー」とベンチに腰掛けた咲妃さんに、僕は「何か飲み物買ってきます」と提案した。
ここまでの諸費用は、全て咲妃さんに出してもらっている。
社会人と高校生ではそれも致し方なしかと思うが、『デート』と言ってくれた以上、なにかしら払いたい。
「じゃあちょっと静かなところで一息つこうか」と、海がよく見えるちょっとした丘の上を咲妃さんは指差す。
僕は咲妃さんにそこへ先に向かってもらい、公園外のコンビニまで飲み物を買いに行った。
レジカウンターに飲み物を二つ並べるだけで、それはとても特別なものに見えるから不思議だ。
どこか甘美で、どこか秘密めいているようで。
実際はそんなことはないのだが、こんなもの、思った者勝ちだろう。
飲み物二つに袋はいらないかと思ったが、直接持って僕の温度が飲み物に伝わるのも気が引けたので、袋をガサガサさせながら、咲妃さんの元へ向かう。
芝生の坂を少し上ると、咲妃さんの顔が見えた。
「咲妃さ──」
声を掛けようとした瞬間、ため息をつく咲妃さんの表情が見えて、それが憚られた。
たまに見せる、あの顔。
咲妃さんを咲妃さんたらしめる、あの表情。
さっきまであんなに楽しそうにしていたのに。
咲妃さんの根にあるものは、きっととても深い。
僕が立ち尽くしているのに気付いた咲妃さんは、すぐに表情を崩す。
僕に気を遣っているわけじゃない。咲妃さん自身、あんな顔をしたくないんだ。
それでも、咲妃さんは何かに囚われている。
「……咲妃さん」
今なら、聞けるかもしれない。
勘違いかも知れないが、僕はそう思った。
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