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「それで、どうだったの? 今日」
「大道芸のフェス行ってきた」
「大道芸? ふぇす?」
「知らないのか? 大道芸は外でジャグリング……お手玉の凄いヤツみたいのをやったり、手品をやったりすることで、フェスは……まぁ、お祭りみたいなもんだ」
「ピエロさんのお祭りだ!」
「ピエロ……居なくもなかったか」
「いいなー。私、ちっちゃい頃ママに連れて行ってもらったことある! 海の公園のピエロさんのお祭り!」
「海の公園って言うとまさに今日行ったところかもしれないな」
「いいなーいいなー。ねぇ、楽しかった?」
少女は目をキラキラさせながら、僕を見つめてくる。
「うん。少なくとも僕は楽しかった。咲妃さんも……楽しんでくれたと思う」
「きっとそうだよ! ママも一緒に出掛けてて私が楽しんでると、ママも楽しいって言ってたし!」
「お前ホントに母親好きだな。……父親とは出掛けたりしないのか?」
「パパはいっつもお仕事だから」
「そっか」
僕と一緒だな。
「なぁ、お前さ、さっきも家の前で待ってたって言ったよな」
「うん。ちょっとだけどね」
「もう、家の前で待ってなくてもいいから」
「えっ?」
笑顔から一転、少女は不安そうな表情を浮かべる。
「迷惑……?」
「あ、いや、そういう意味じゃなく。親父はいつも帰り遅いし──っていうか帰ってくるんだか来ないんだか分からないし、鍵の場所教えるから、次からこの部屋で待ってなよ」
普通ならその提案は、ものすごく無用心なのかもしれない。
でも、この少女が勝手に家探しして何かを盗んでいくとは到底考えられなかったし、毎日のように外で待たせるのは不憫な気がしてならない。
何より似たような境遇のこの少女が、まるで僕の妹みたいに思えてきたのだ。
僕が微笑むと、少女は一旦不安になった分だけ一層嬉しかったのか──。
「ふへへー」
目を大きく輝かせてはにかんだ。
──その様子があまりにも可愛らしくて、僕は思わず、少女の頭をポンポンっとやってしまった。
「ふひひ」
くすぐったそうに目を細める少女を見て──。
「……っ」
僕は途轍もなく恥ずかしくなった。
雰囲気に流されたとはいえ、何をやっているんだ。
僕は手を引っ込めることもできず、固まってしまった。
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