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ピエロのお祭り
「うわ~。いっぱい~」
跳びはねるように喜ぶ少女の感嘆には主語がない。
「何がいっぱいなんだよ」
僕は笑いをかみ殺しもせずに、少し先を歩く少女に尋ねる。
「人も、屋台も、楽しそうなことも、美味しそうな匂いも! いっぱいがいっぱい!」
色めき立つ少女は放っておいたら、人混みの中をどんどん分け入って行きそうだ。
「あんまり先行くと迷子になるぞ」なんて言う僕は、まるっきり保護者だ。
「ねぇねぇおにーちゃん、お願い!」
駆け戻ってくるなり、少女は僕の腕に飛び付く。
「な、なんだよ?」
「わたあめ食べたい!」
「わたあめ? 別に構わないけど……もっと腹に溜まるものの方がよくないか?」
「わーたーあーめー」
少女は僕の腕ごとダダを捏ねる。
「わかった。買ってやるから離れろ!」
「やったー!」
はやくはやく、と腕を引っ張られながら、昨日もこんなことあったな、とぼんやり考える。
今まで女性に腕を引っ張られたことなど無かった僕に、モテ期でもやってきたのだろうか。
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