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灰かぶりの少女
うちの高校の文化祭は、夏にある。
夏といっても六月下旬だが、そのおかげか、随分と夏祭り然とした催しもので目まぐるしい。
その名も“芙蓉祭”という。
芙蓉は夏に咲く一日花で、朝開いた花弁が夕方には閉じるらしい。
僕は花には詳しくないので、終業式の校長の挨拶を話半分に聞いていたが、その一日花である芙蓉に込められた思いは「皆さんは明るく咲いているのだから、その一日という時間を精一杯楽しみましょう」というもの……なのだという。
その芙蓉祭実行委員なんていかにも楽しそうで青春の思い出になりそうなものに立候補してしまったばっかりに、後夜祭で使われたファイヤーストームの後片付けというハズレくじを引いた──六月の、とある夜だった。
みんなを盛り上げるだけ盛り上げて、言葉通り燃え尽きたそれを掻き集めて入れたゴミ袋を両手に抱え、僕は校舎隅にあるゴミ捨て場に一人向かっていた。
それにしても、詰め込みすぎじゃないか──。
右手には箒で掃き集めた灰を、左手には燃え残りの廃棄物を。それぞれパンパンに詰まった袋を、何とか引きずらないように運ぶ。
時折その重さに負けて地面に擦る音が聞こえた気もするが、足元が暗くてよくわからない。わざわざ確認の為になんて、足を止めたくなかった。
そうこうしてやっとたどり着いた、ゴミ捨て場。
「……よっ……と!」
早くこの重さから解放されたかった僕は、山積みになったゴミ袋の頂点を狙って、右手に持っていた袋を高く放り投げた。
それは美しい放物線を描き、夜空を流れる星のようで──。
僕は悦に入りながら、今度は左手の袋を右手に持ち替えて、前後前後に反動を付ける。こちらは廃材なので、先程の袋より重い。
暗がりの中、より高く狙いを定めて袋を投げ──ようとした瞬間。
(……え?)
目の前に、粉雪が舞った。
いや、実際はそんなに美しいものではなく。
僕がさっき頂点に投げた灰入りゴミ袋が一転がり、二転がりしてその中身をぶちまけただけだった。
(あちゃー)
やっぱり、引きずって袋が一部薄くなっていたのだろうか。
引き返して箒を取りに行くか、気付かなかったふりをして逃げ出してしまうか逡巡していると──。
「うわ、うわわー」
誰もいないはずのゴミの山から、素っ頓狂な声が聞こえてきた。
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