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最初にわたあめ、それからリンゴアメ、ベビーカステラ。
幸せそうなほっぺたは、陽に当たるとてらてら光る。
よっぽど美味しかったのか、にへっとそのまま笑う姿はとても可愛らしくはあったが、さすがにみっともないので、その頬を拭うことにした。
「お前、何か拭くもの持ってないのか?」
「ハンドタオル持ってる」
少女はスカートのポケットをごそごそしたかと思うと、そこから白地のハンドタオルを取り出した。
それには、黒色の耳をしたウサギのキャラクターが刺繍されている。
「貸してみな。ほっぺた拭くから」
ぺっとりと砂糖の付いた頬を拭いてみても、ちっとも拭えない。仕方なくゴシゴシと強めに擦る。
「おにーちゃん……痛い」
「取れないな……ちょっと濡らしてみるか」
僕は少女のハンドタオルを、近くの水道で濡らしにいった。端っこの部分をちょっと濡らすだけでいいだろう。
少女の所に戻って、ほっぺたを拭いてやり──。
「よし。綺麗になった」
「ありがとー」
言いながら少女は気もそぞろで、目がせわしなく辺りを見回していた。腹も満たされて、どうやら意識が大道芸に向き始めたようだ。
「ほら、ちゃんとハンドタオルしまって──」
と、返そうとした時、あるものが目に入った。
「──お前、ハンドタオルに自分の名前書いてるのな」
「いいじゃん。名前書いておけばなくさないよ。──そんなことより、おにーちゃん、行こ」
無造作にハンドタオルをしまい込んだかと思うや否や、少女は僕の手を引っ張って人垣へと向かった。
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