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夕暮れ時のおとぎばなし
「……で、なんで玄関前にいるのかな?」
「あ、おにーさん。お帰りなさい」
文化祭の振替休日。つまりは昨日の今日。
やることもなく過ごした一日ももう夕方で、ふらりと行ったコンビニの帰り。
僕は、制服姿で玄関先に体育座りしている少女を見つけた。
「待ってたんだよ、借りた服返そうと思って」
屈託なく笑う少女に微塵も悪意などあるはずもないが、玄関先にたたずむ見慣れない少女。
端から見たら──咲妃さんが見たらどう思うだろう。
「いや、わざわざありがとう。でも昨日『また今度』って言ってたから、まさか今日いるとは思わなかった」
「ねぇ、遊ぼ」
「話、聞いてる?」
「遊ぼ」
「聞いてないし……」
少女は立ち上がってぐいぐいと僕の袖を引っ張る。
僕の瞳を覗き込む少女の瞳は透き通っていて、吸い込まれていきそうだ。
「遊ぶって……」
思わず目をそらして、口ごもる。こんな時、女の子慣れしてない自分がとても恥ずかしい気がして、耳が熱くなる。
「なんで僕と遊ぶのさ、友達でもあるまいし」
「違うの?」
少女は目を丸くして、心底驚いたというような声を漏らす。
「僕と君は昨日会ったばっかりで、仲良くなるようなことは何もなかった。そりゃ汚しちゃったことは悪いと思うけど……」
「お風呂まで貸してくれたのに?」
「こ、こら。そんなことを大きな声で」
僕の動揺に少女は効果あり、と察したのかイタズラな瞳で白々しく声を上げる。
「あー、昨日はいきなり汚されて、いきなり連れてこられて、いきなり──」
「わかった、わかったから」
僕は慌てて人差し指を口の前に持っていき、「シーッ」と身振りする。
えへへ、と勝ち誇ったように笑う少女を見て、僕はやっぱり女の子は得意ではないな、と実感した。
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