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潮風と憂いの笑顔
「それで、どうしたの?」
「どうもこうも。なんの言い訳もできずにそのまま帰ったよ」
翌日土曜日の午前中。僕は昨日の顛末を少女に話していた。
少女はうんうん頷いて、神妙な顔をしている。
「まぁ……しょうがないよね。酔っぱらってる人の気持ちなんて、酔っぱらったことない人には分からないよ」
昨日『自分の子どもさ加減』に情けなさを味わったのに、さらに自分より子どもにフォローされているとますます情けなくなってくる。
「……でも逆に。酔っぱらってふらふらしてるのに、それだけおにーさんのこと真剣に叱ってくれるんだからさ、ないがしろにされてないことを喜ぼう」
「お前、ポジティブだね」
「前向きに考えた方がいいじゃん。一度きりの人生だよ」
「その歳で人生語るか」
この少女を見ていると、なんだか悩むことがとてもくだらないことのように思えてくる。
無邪気に理想論を口にする少女には、微塵も打算など無く、いったいどう育てばこんな風になれるのだろう。
今さら自分の家庭環境など嘆きもしないが、少しこの少女を羨ましく思う。
「さ、それじゃあ前向きにデートのお誘いでもしてこようか!」
「え?」
「今日はお隣さん土曜日だからお休みでしょ? レッツゴー!」
少女は立ち上がると、僕の手を引っ張りあげようとする。
「ちょ、ちょっと」
大した力ではないはずなのになぜだか少女に抗えず、心の準備などできるはずもないまま玄関先まで引きずられる。
その瞬間。
──ピンポーン。
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