蛇神様のお嫁様 ~昔々あるところに、梅雨時うきうきデート計画中の神様と異色経歴マッスルエクソシストがいましたとさ~

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 かつて『邪神』と言われ、封印された神がいた。あたしはその監視人の子孫。  ひょんなことから解放してしまった彼は、悪意ある人間の計略で貶められた土地神だった。  さらに「嫁にする」といって押しかけ同居してきた。  すったもんだの末、半ばあきらめて受け入れた今日この頃。 ☆  彼、八岐大蛇の息子は梅の収穫してた。  うち(神社)の境内にあって今年も豊作です。  頭九つもあると早いな。 「たくさん採れた。梅酒と梅干にしよう」 「所帯じみてる……。あんたはおばあちゃんか。つか酒好きね」 「日本の神は大抵酒好きだぞ。俺はまったく酔わんが」  ヒト型に化け、いそいそ梅加工する祀り神様。父親が酔っぱらったとこ倒されたはずなのに。シュール。 「酒ねぇ……」 「どうした?」 「酒といえば先祖にちょっと、思い出してね」  長らく『邪神の監視人』と差別されてきたうちに嫁・婿に来るのはワケありばっかだった。 「中でも変り者で……」  ひゅ――、どか――ん!  いきなし隕石、じゃなかった巨大な肉塊降ってきた。  何事?! 「ふーっ……」  むっくり起き上がったのは人間?で……。 「ってジュリーおじいちゃん! 噂すれば影!」 「やあトーコ、久しぶりだなッ」  赤毛の元アメリカ人は元気に言った。  が、脂ぎった外見で爽やかとは程遠い。  なにしろ目の前にいるのはムキムキマッスル、ガチムチ巨大筋肉である。チャームポイントは立派な口ひげ。脳筋で正真正銘変人だ。 「Mr.クローに呼ばれてな、ハッハッハ」 「あんたが呼んだの? 何で?!」 「彼の専門分野の事件があってな。ついでに東子も学び直したらどうかと」 「はあ? 専門って……」 ☆  連れてかれたのはとある山中。 「梅雨なのに全然雨降らないだろ。原因は水神が何人も弱ってるからで、俺も仲間として調査したら人為的なものと判明してな」 「誰かが晴天続くように術でも使ってたの?」 「だったらまだいい。一種の呪詛だ。ほら」  隠されてた結界が見えるようになる。中には黒い怪物が。 「角がある……悪魔っぽく見えるね。ああそれで」 「火か太陽神を降ろして力使おうと考え、ネットで検索して出てきたやつ使ったらしい」 「なもんググるな。ネット上にある真偽不明の情報使うとかありえない」  何が事実で虚偽かきちんと見分けなきゃ。 「だろ。しかもそれ、悪魔がバカな人間騙そうとわざと載せてたやつで、ひっかかってこの通り」 「愚かなことよ。わしが鍛え直してしんぜようッ」  どこからか出した酒を一気飲み。 「うーい、ひっく……ふんぬッ!」  ふらふらしたかと思うと、上着脱いで気合入れた。ボンッと筋力up。少年漫画か。 「ホアチョオオオオオオ!」  非常にアレな絵面なため、某カンフー映画のお好きなシーンを思い浮かべてお待ちください。 「ウラララララララララッ!」  某奇妙な冒険漫画のお好きなシーンを思い浮かべてお待ちください。 「おー、すごい。パチパチ」 「拍手しなくていい。おじいちゃんの祓い方って、酔拳+肉弾戦なんだよね……」  げんなり。  この本人は美しいと思ってる独自スタイルゆえに故郷を追われ、軍人に。筋肉万歳すぎて「太平洋を泳いで横断してみよう」と思い立ち出発するも途中で溺れかけ、遠洋漁業船に乗ってたうちの先祖(人魚の娘)に助けられて一目惚れ。そのまま帰化したというツッコミどころ満載な生涯を送った。  もうとっくに死んでて、これは霊魂だ。 「これやれって言われたから過去拒否ったんだけど。これやれと? あんなマッチョになれっての?!」  本気であたしは拒絶する! 「うーん、ははは」  酔いどれ筋肉英国紳士退魔士にプロレス技かけられて悪魔瀕死。ギブだってよ。 「もう降参とは。修行つけてやろうッ」 「ひいいいい勘弁してくださいいいいいい!」  もはや気の毒。とはいえ助ける方法って。 「東子、これ使ってみ」  九郎があたしの腕にブレスをはめた。 「東子は先祖が色んな種族いたせいで血が混じりまくって力を発現しづらいだろ? 補助アイテム」 「へぇ、ありがと。やってみる」  呪文は覚えてたんで唱えてみる。  きちんと発動し、悪魔はめっちゃ感謝しながら昇天してった。祓って悪魔に感激されるって。  にしても初めて発動したわ。  ……あれ、ブレスにさっきまでなかった黒い石みたいなのが。  思考は先祖の大泣きで中断された。感動も大げさなムッキンジェントルエクソシスト。 「おお、ついにできたのかッ! 祝杯じゃー!」 「酔い覚まそうね」  口に梅突っ込んでやる。 「すっぱあああ!」 「素面に戻った? ……ん?」  悪魔憑いてた人を見て驚いた。知り合いだ。  自称正義の陰陽師、御影正義君。 「修行中の陰陽師が何でこんなことしたの」  ジャンルとか色々おかしくないかとツッコめば、少年はうめいた。 「うう……梅雨なんてなくなればいい……東子さんとそこの邪神の相合傘なんかさせるものか……っ」  ―――はあ?  心底呆れた。 「何言ってんの。おバカな思い込みでくだらないことして。ネットに書いてあること鵜呑みも駄目だよ?」  かくして軽い気持ちでやらかした&ネット情報を鵜呑みにした若者は、待機してた警察に連行されました。最近こういう人よくいるよね。ああ、警察はこういう専門部署のよ。 あたし達は九郎の神通力で瞬間帰宅。 するとぽつぽつ水滴が落ちてきた。雲が広がり、あっという間に雨が。 「これできちんと梅雨が来るだろう」  雨が降らなければ農作物も育たない。必要なことよね。 「まったく、折角東子と相合傘するチャンスなのに邪魔しおって」  ずっこけそうになった。マジで考えてたのかこの祀り神。  どっちもアホか! 「ハッハッハ、青春だなッ」 「こいつ千歳越えだけど」 「東子―、ほら傘入って」 「家に入るわ」  無視して玄関開けた。泣き真似する蛇神様。 「演技なのバレてるわよ。おじいちゃんはしばらくこっちいるの?」 「うむ。東子に改めて教えようと思ってな。まずは筋トレから」 「それはやらない」  即却下。普通のやり方で。 「東子のそういうキツイとこも好きだけど。ジュリー隊長、謝礼はこれで。新酒と霊体にも効くプロテイン」 「おおお、すばらしいッ!」 「ンなもんあんの?! つーか酒はダメ――っ!」  筋肉酔拳軍人エクソシストを止めるため、悪魔祓いとついでに拳法(未成年のため酒ナシ)にプロレス技をマスターしてしまったあたしだった。
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