大いなるSAVE

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「くらげの飼育が難しいなんて誰が決めたんですか? きちんと調べれば育て方だってわかるはずなのに、無難にメダカで攻めようなんて安直にも程があります。びびってるんですか?」 「びびってるってなんですか? 水槽はみんなの物です。可愛いからとか綺麗だからとか、そんな個人的な理由で意見を押し通せるとでも思ってるんですか? あなたのペットじゃないんだから。そんな身勝手に巻き込まれるくらげだって可哀想です」 「は? なにそれ。あなたにくらげの気持ちなんて判るの?」 「気持ちは判らなくたって可哀想なのは伝わります」 「可哀想っていうのは、くらげが哀しい思いをしているのが伝わるってことを言いたいんでしょ? それって気持ちなんじゃないの?」 「同情の余地という意味です。それ以前に、私は印象や受動的な意味合いで話をしたまでです。それは大した問題ではありません。論点をすり替えるのはやめてください」 「はあ? そもそもあんたが『くらげが可哀想』とか言い出したんじゃない」  お嬢とリーダーはとても仲が悪い。  犬猿の仲、水と油。とにかくソリが合わない。  侃々諤々(かんかんがくがく)喧々囂々(けんけんごうごう)。  二人の意見の応酬は、仕舞いには「身勝手」だの「我儘」だの、「堅物」だの「冷血人間」だの、果ては「バカ」だの「アホ」だのと、低レベルな罵倒へと移行する。  中学生にもなって、そんな小学校低学年みたいな二人の言い争いはいつものこと。  クラスの男子たちは「また始まった」とばかりにため息をついては呆れ、女子はお嬢派とリーダー派の真っ二つに割れて睨み合いをする始末だった。  ──こうして“一年三組にやってくる水槽で何を飼うか論争”は平行線をたどり、くらげ派とメダカ派で二分したまま収束は見られなかった。  男子の中で地味に「ザ……ザリガニ……」という意見も遠慮がちに出たものの、女子たちが白熱しすぎていたので、見向きもされなかった。
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