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赤い皮
やがて、一年三組にやってきた水槽。
「ザ……ザリガニ……」
そこに投入されたものを見て、お嬢は顔を引きつらせた。
「……結局、間を取って男子の意見が採用されることで事態が収束したってわけね……。これぞまさに折衷案……」
リーダーも、水槽を眺めながらつまらなそうにため息をつく。
四角い水槽の水底に砂が敷き詰められ、5㎝ほどの深さに水が張られている。
その中には、一匹のアメリカザリガニ。男子の誰かが持ってきたものだ。
「私、ザリガニだけは無いわーって思ってたけど」
お嬢が呟くと、リーダーも「私も」と頷いた。
「……………」
「……………」
今は放課後。
教室にはお嬢とリーダー以外には誰の姿もなく、時折外から部活動の掛け声が聞こえるだけで、とても静かだった。
「……ねぇ、リーダー。餌あげてみなさいよ」
「嫌よ、気持ち悪い。甲殻類が物食うところなんか見たくないわ」
「ホントにあんたびびりね」
「はあ? 誰がひびりよ。だってよく見てみなさいよ。甲殻類よ? あの赤くて固い表皮をまとった生き物がハサミの形をした手を動かすなんて、人間とかけ離れすぎててまともな神経では五秒と見つめていられないわ。もしこれが巨大化したらどうなるの? 誰も太刀打ちできないじゃない」
「……よくもまぁ、理路整然と夢のある話を……。そんなどこかのウルトラ怪獣じゃあるまいし、巨大化なんかしないから安心しなさいよ」
「だったらあんたが餌あげてみなさいよ、お嬢」
「私だって嫌よ、そんなグロテスク」
「……なんなのよ」
「…………」
「…………」
二人は沈黙した。
空気ポンプのポコポコという音だけが、教室内に響いていた。
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