愛について

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「……分かりました。明日、買います」  新堂さんに会計をしてもらってから、店の外に出た。夜風が頭に響く。思わず俺は電信柱に手をついた。 「大丈夫? 家どっち?」 「あっちです」  俺は駅前のホテルと反対方向を指差す。すると、新堂さんは俺の指を柔らかく握ってきた。 「今日も、ホテルに泊まらない?」 「えっ」 「ひとりで帰らすのは心配だし、泊まれば良い」 「駄目ですよ……そんな」 「じゃあ、僕が君を家まで送っていく。ついでに泊めてもらおうかな?」 「それは……」  駄目だ。独り暮らしの俺の部屋は、お世辞にも綺麗だとは言えない。上司を上げるなんてもっての他だ。 「さあ、どうする? 二択だよ?」 「……泊まらせていただきます」 「ふふ。じゃあ、行こう?」  手を取られて歩き出す。  こんなところ、会社の人に見られたらどうするんだと思い手を振り払おうとした。けど、力強い新堂さんは手をどうしても解いてくれない。 「あの、会社に近いからこういうことは……」 「駄目。こうしていないと青葉君、転びそうだし」 「うっ……」 「ゆっくり歩こうね」  新堂さんは俺に歩幅を合わせて歩いてくれた。そのリズムが心地良い。いつの間にか俺は新堂さんにすべてを委ねて歩いていた。
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