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「……分かりました。でも、俺もそんなに詳しいわけじゃ無いですからね? 安いとこしか知らないし……」
「値段は関係ないよ。重要なのは誰と食べるかだからね」
「……では、五時になったらお迎えに上がります。くれぐれもここで待っていて下さいね。昼みたいに迎えに来なくて良いですから」
「ええっ。行きたいなあ、お迎えに」
「駄目です!」
口を尖らせる新堂さんに釘を刺して、俺は部屋を後にした。あんなに目立つ人にうろうろされたら堪ったもんじゃない。
自分の席に戻ると、先輩に声を掛けられた。
「青葉、大丈夫か?」
「何がですか?」
「その……新堂さん。無理なこととか言われてないか?」
「風見先輩、優しいですね……正直、何考えてるか分からない人なんで苦労してます」
「そうか……困ったこととかあれば何でも相談しろよ! 俺も手伝うから!」
「ありがとうございます。その時はよろしくお願いします」
俺の肩を叩いて、先輩は書類を取りに向こうへ行ってしまった。
相談……出来ないなあ。まさか口説かれてるなんて言えないし。ましてや一度寝ました、なんてとてもじゃないが言えない。これは、ひとりで解決ないといけない問題だ。
俺はまたパソコンを立ち上げて、途中の資料のファイルを開く。これを終わらせて、五時になったら……新堂さんを何処に連れて行けば良いんだ……?
あんなお坊ちゃま、安い居酒屋に連れて行くわけにもいかないし……。
かと言って、高級な店なんて知らない。どうしよう……。
いっそのこと、ホテルに行ってやろうか。なんて馬鹿げた考えが頭をよぎる。もう一回、抱いてって言ったら新堂さんどんな顔するかな……。
ま、そんなこと言わないけどね。
とにかく、目の前のことに集中、集中……。
さっさと資料を終わらせて、時間が余ったら店をネットで調べよう。
そう思い直して、俺はパソコンに向かった。何かに追われるようにキーボードを叩く。それだけが俺の取り柄だから……。貯蓄、貯蓄、貯蓄……。虚しい思いを抱えながら、俺の頭は仕事に向き合っていた。
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