一晩の愛

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「今日もひとり?」 「うん」  苦笑するバーの「ママ」から甘いノンアルコールのカクテルを受け取る。結局、来ちゃった。相手を探しに。  ママは俺のことを始めは心配してくれていたけど、もう諦めてるみたい。「そのうち、良い人が見つかると良いわね」ってこの前言われた。良い人か……そんなの見つかりっこないよ。その言葉は口にすることなく、カクテルと一緒に飲みこんだ。  ここは出会いを目的に作られたバー。客のほとんどがアルファとオメガ……だと思う。他人の個人情報は知らないからはっきりとしたことは言えないけど、出会いを求めて彷徨うのなら、その性の人が多いんじゃないかな。  そういう俺も、オメガだし。  けど、俺の見た目は……ベータっぽい、らしい。とにかく普通。中学の時の検査で「貴方はオメガです」って言われた時は家族中が驚いた。  成績も見た目も中くらい。そんな俺は確実にベータだと思われていたし、自分でもそう思っていた。  オメガだからと言って、今まで困ったことが無い。何故なら……俺にはヒートが訪れたことが無いから。もちろん医者にも行った。検査も受けた。けどどの医者も口を揃えて「原因不明」って言う。だから仕方ないんだと思って、諦めてこうして生きている。たぶん、俺はできそこないなんだろう。だから誰も愛してくれない。愛し方も分からない。このまま一生、ひとりなんだろうな……そのためにも貯蓄は大切だな。  そんなことを考えながら、ちびちびとカクテルを飲んでいると隣に男性が座った。高級そうなスーツを着て、眼鏡をかけている。アルファだ、と思った。だって、全身から普通とは違うオーラが出ているから。 「ひとり?」 「うん」  たぶん、年上であろう男性にため口で答えた。こんな場所だ。礼儀なんて必要ない。  男性の見た目は、かなり格好良い。薄暗い店内でもそれははっきりと分かる。切れ長の瞳に形の良い眉。薄いくちびるは笑みを作っていて、思わず引き込まれそうになる。  俺は隣に座った男性に訊いた。 「お兄さんも、ひとり?」 「はは……お兄さん、って年じゃないんだけどね」 「若く見えるよ」
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