コーラ缶

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 何の感情も入っていない声色だった。死にたいわけでもなさそうだが、こいつに何が欠落していると言えば、死に対する恐怖だろう。まさか、おれをどうこうできる秘密兵器があるわけでもあるまい。 「ころさねーよ」  おれはいじけたような口調でベロを出してやった。しかしがきんちょは依然微動だにしないまま、ずっと無表情だ。なんだこの、動かなくなったロボットみたいな気持ち悪さは。まさか人間相手に不気味の谷を感じる日が来るとは。  おれは、近くの公園の場所を教えて、がきんちょを先に行かせた。おれは引きずったままの死体を車の中に押し込み、外から見えないように厳重に囲った後、駐車場に止めてきた。腐敗が進むとたまらないので、保冷剤を敷き詰めて、クーラーはつけっぱなしだ。これでバッテリー上がったらがきんちょに請求したいくらいだ。  やや駆け足で公園に向かうと、逃げもせずにがきんちょはベンチに座ってまたゲームをプレイしていた。なんて奴だ。しかも、このクソ暑いのに何の避暑対策もせず汗びっちょでいたもんだから、おれは悪い気分になった。おれのせいみたいじゃん。まあ実際そうなんだけどさ。  これで死なれては意図せずおれがうっかり殺してしまったみたいなので、自販機でコーラを二本買ってがきんちょの元までダッシュした。このおれをこんなに走らせるなんて、こいつは将来大物になるかもしれない。いや、殺人犯を目の前にしても逃げなかった時点で、大物になる感じあるもんな。  コーラを受け取ったがきんちょはありがとうも言わないで、おれを一瞥だけして、それを開けて飲んだ。樹だってなぁ、ありがとうくらいは言うぞ。  人としての最低ラインにいつも友人を参照するのはよくないことか。 「ぼくが誰かにお兄さんのこと言ったら、どうする?」 「いいやおまえは言わないね」  おれはがきんちょの隣にどっかり座って、コーラを飲む。乾いた喉に、炭酸のしゅわしゅわが激しく刺激した。 「どうして」 「おまえがおれを売ったら、こいつは人殺しを目の前にしても逃げないどころか、ゲームをセーブしてましたって言いつけちゃうからね」
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