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小野寺さんと黒田くん はじまり
この状況、どうしようか。小野寺ミカは目の前に立つ男、横溝を冷静に見ていた。校舎の外、焼却炉に向かう途中で壁に追い込まれたミカの横に両手をついて、逃がさないと無駄に爽やかな笑顔でこちらを見ている。
「どいて」
「どうして?」
「ごみを焼却炉に持って行くから」
「そんなの後でいいだろ? 今は俺と話してる」
はあー!この胡散臭い笑顔。引っ叩いてやりたい。本当に邪魔だ。面倒くさいのに捕まってしまった。
暑い空気の中、背中に当たる壁の冷たさを感じながらミカはため息をついた。
この横溝という男は、隣の席になってからというもの、しつこく話しかけてきては嫌な笑顔を見せてくる。他の女子からは格好いいなんて言われて、調子に乗っているようだった。どこがこんな人、とミカは思った。
「こっちは話すことないから」
きつく言い放っても横溝は少しも動じず、むしろ余裕だとばかりにニヤリと笑った。
「そんなにツンツンするなよ。仲良くしたいだけなのにさ。ねぇ、この後2人でどっか行かない?俺のお勧めのカフェがあるんだけど、そこのケーキがすごく可愛くて。可愛い君にぴったりだと思うんだ」
鳥肌が立って仕方がない。何でこう、ぺらぺらと歯が浮くような台詞を吐けるのだろうか。
ミカは横溝を突き飛ばそうと手を動かした。ミカの手よりも早く横から手が伸びて来て横溝の体を後ろに突き放した。手の主を見上げると、背が高くて目が前髪で隠れた男が立っていた。
「黒田くん?」
「黒田。お前何するんだよ」
横溝が声を低くして黒田を睨んだ。すると黒田はミカを背中に庇うように前へ進んだ。
「小野寺が嫌がってる」
「お前に関係ないだろ?」
「嫌がる相手に言い寄るのは良いことだとは思えない。それくらい分かるだろ?」
黒田が威圧するように一歩横溝に近づいた。
「何だよ! お前はいつもそうやってすぐ暴力を振るう。お前の方が悪いだろうが」
横溝が慌てたように手を前に出して黒田から距離を取った。黒田は、はぁと息を一つ吐いて踵を返してミカの腕をとって歩き出した。
「えっ? 黒田くん?」
「行くぞ。こんなのに付き合ってられるかよ」
肩越しにこちらを振り返り、横溝の方に視線を向けた。
「おい。ごみ、ちゃんと焼却炉に持って行けよ」
横溝は呆然とした様子でこちらを見ていた。
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