#8 - 堕天狩り

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 2  翌朝、アダムは教会に火を着けた。  超常存在の痕跡を跡形もなく消す為、そして魔物の犠牲となった計三十三人を火葬する為だ。  彼等の宗教に倣うなら大地に埋葬するべきだったが、大半の死体が原型を留めておらず、判別できないそれらを埋めることが面倒になったアダムは、ローレンス達の死体が在った学舎ごと全てテベリスの炎で燃やしたのだ。  その中には当然、クロエの亡骸も含まれている。 「――よし。あとは蒐集家に連絡して、終いだ」  テベリスの炎は教会を燃やし尽くせば森に燃え移ることはない。  対象は数時間で灰燼と化し、煙を空に立ち昇らせて収束する。  逆巻く炎に包まれていく修道院を眺めつつ、アダムはミルの右籠手の通信機でマルコムとの通信を図る。  隠匿術式はクロエの死によって解除され、白い霧は既に消失している。  当然、数秒も経たず通信は開かれた。 『やぁアダム。元気そうでなによりだよ。狩りの経過は如何かな?』 「終わったぞ、今から本部に戻る」 『それはそれは……ひと月の間ご苦労様。それで、今回のターゲットはどうだった?』 「ただの鳥獣系の魔物だった」 『そうか。今回も君が求めるものとは程遠かったわけだね。今後は期待に沿えるよう、もう少し情報収集の精度を上げよう』 「『堕天使』なんざそう簡単に見つからねえだろうし、元々黒翼は俺が狩るって契約だ、気にするな。あまり期待もしていなかったしな。ちなみに魔物についてだが、恐らくベースは百舌(モズ)だ。尤も全身黒一色だったから他にも混じってるかもしれねえが」 『ふむ。なにか調べられるものはあるかな?』 「右翼の羽数枚と左の眼球だけ、残りは全部凍らせて粉々にしちまった」 『十分だよ、アダム。君の配慮に感謝しよう。どこかの肉食系のお嬢さんと違って』 「誰の事だ? 光の巫女か?」 『さぁ誰だろうね』 「まぁなんでもいいけどな。教会燃やしたから隠蔽を頼む。森には燃え広がらねえようにしておいたから」  アダムが教会に目をやると、炎はさらに勢いを増し、その全てが瞬く間にうねる緋色で包まれた。  魔物の痕跡も、彼等が居た事も、全てが逆巻く炎の中に消えていく。 『承知した。ではそちらは手配しておくので、本部に帰還してくれまえ。あそうだ、帰還中に今回の件の報告をしてもらおうかな』 「本部に帰ってからでもいいんじゃねえか?」 『すまないが今日はその時間が無さそうなのでね、運転がてら世間話をする感覚で話してもらって構わない』 「また厄介事か?」 『そちらは人員が揃ってから直接話そう』 「そうかよ」  待ち受ける厄介事に嫌な予感がするアダムは短く息を吐くと、テベリスを散弾銃に変えてホルスターに仕舞い、二輪に跨った。  そしてミルがサイドカーに乗ったことを確認し、アクセルを掛ける。 「飛ばすぞ、ミル」 「了解」  ミルの返事の直後、けたたましい駆動音を轟かせながら二輪が走り出す。  しばらくすると炎上する教会は木々に紛れ、駆ける彼等からは灰色の煙だけが見えた。  アダム達が背後を振り向くことはない。  燃えゆく教会に未練などありはせず、彼等はただ前だけを見据えているからだ。  たとえ地獄に落ちると言われようと、行き着く先が冥府だと知っていても、アダムが道を迷うことはない。  彼等はまた次の獲物を――人々を貶め、食い殺すもの達を求め、そして狩りに行くだろう。  なぜなら、自身の渾名であり宿願でもある『堕天狩り』を果たすまで、アダムがその歩みを止めることは決してないのだから。  Case.3『Prey impaling in Shrike/百舌の早贄』 解決
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