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松井ミユキ
私、松井ミユキ22歳は…
「…っ…あっ……」
「ミユキ…」
今日も…ヒデオのテクニックに翻弄されていた。
ヒデオのセックスは最高だ。
最高過ぎて…悔しくて泣けてしまう。
失神しない。と耐えながらも、何度も意識を失いかけて。
頭の中で歴代総理の顔を並べてみたり、ヒデオじゃない男の事を思い浮かべて気持ちを萎えさせようとしたけど…無理だった。
毎回、今日こそヒデオを先にイカせる。って心に決めるのに。
また…何度もイカされた。
この敗北感…何度目だろう…
「…愛してるよ…」
耳元で囁かれて、トドメに首筋を甘噛みされて…意識が遠のいた。
「……ん…。」
ふと目が覚めると、隣にヒデオはいなかった。
愛おしい抜け殻に手を触れ、溜息を吐いていると…かすかに水の音が聞こえた。
…シャワー中…か…
ヒデオはいつも余裕だ。
私はこんなにグッタリとしてしまうのに。
「ふ…う…」
普段は一人じゃ何も決められないクセに。
ベッドの上では主導権を握る。
…私に『ダメ』や『許して』を簡単に言わせる。
それが、快楽であると共に…屈辱でたまらない。
まだ少し疼きの残った体を、ゆっくりと起こす。
長い前髪をかきあげて後ろに追いやって、サイドボードに置いていたクリップでそれをまとめた。
…私もシャワー浴びて来よう…
一緒に入って甘えたい気持ちはあるものの、それは負けた気がする。
私は階下のシャワールームを使う事にして、寝室を出た。
この家は…母が建ててくれた。
私は金持ちの娘。
ヒデオは、いわゆる逆玉に乗った男だ。
本当は、兄が経営する会社の役員として迎えられるはずだったのに…それを断ってまで製薬会社に居続ける意味が分からない。
まあ、私と結婚してくれたんだから…仕事なんてどうでもいい。
いつかはヒデオの気も変わるかもしれないし。
シャワーを浴びて、下着姿のままリビングに入ると。
いつもは気にならないのに…そこにあったヒデオの鞄が目についた。
「……」
この鞄は、私がプレゼントした。
本当は、私の気に入っているブランドの鞄をあげたかったのに、ヒデオは『すぐに傷むから、安いのでいい』って…
でも、選ぶの楽しかったな。
買い物をした日を思い出して、優しい気持ちで鞄に触れる。
すると、財布がはみ出してるのが見えた。
もう…こんな見える場所に財布を入れるなんて。
目を細めながら、財布を手にする。
今まで気になった事もないけど…軽い気持ちでそれを開いた。
長財布の三列目には、丁寧にレシートがおさめられてる。
ヒデオ、お小遣いを何に使ってるのかな。
私はカードがあるから現金なんて持たないけど、ヒデオは現金主義者。
「…Pinks…?」
そのレシートは、私もヒデオもお気に入りのケーキ屋。
だけど今日、ヒデオはそんな物持って帰らなかった。
だいたい…一人じゃ買い物もままならないのに。
「……午前中に…六個。」
…誰と食べたの。
一つの黒い小さなシミが、ずんずんと心の中に広がっていく。
眉間の辺りがモヤモヤするような感覚。
…イヤだ。
気が付いたら、鞄の中の物、全てに目を通してしまっていた。
だけど、レシート以外に怪しい物はない。
…会社の人に頼まれた…とか。
そうかもしれない。
ヒデオは器用な人間じゃないから、隠し事なんて…
『ミユキ?』
二階からヒデオの声が聞こえた。
乾かしてない髪の毛をタオルで拭いていると。
「いないから心配した。」
ヒデオがホッとした顔でやって来た。
「…下でシャワーしてたの。」
「来れば良かったのに。」
「イヤよ。」
あ…
これは可愛くない。
自分でも分かってるのに、どうしても素直になれない。
「……風邪ひかないようにね。」
ヒデオは少し寂しそうな顔でそう言いながら、私の髪の毛に唇を落とした。
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