おいしそうなタマゴ?

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おいしそうなタマゴ?

 ズパッ!!    切れ味の良い包丁でキャベツを切った時と似た音が、まっ暗闇に包まれた<どこか>に響き渡った。  大きな光の刃が<赤道>と直角に走ったかと思うと、ズズズッと重く鈍い音と振動が生まれた。  鋭い刃によって分かたれた二つの<半球>が、たくさんの小さなヒビ割れを生みながら、少しずつ正反対の方向へとスライドし始める。  人間が、卵の殻に入ったヒビに親指を差し込んで割り、中身を取り出す行為と同じく、見えない何者かの大きな指が、大地の割れ目に差し込まれ、半球同士が引き離されていく。  中心部のドロっとした部分は、鶏卵の黄身よりも赤く鮮やかな色をしており、粘り具合は半熟ゆで玉子に近い。  真っ赤な黄身の周りには、火が通り過ぎて少しボソボソとした黄身と、固まった白身を思わせる固く茶色い土。  だが、その中身は生卵を割った時のように落下しなかった。  なぜならその空間――宇宙には上下左右がなく、落ちる場所もないからだ。  ならば、中身はどうなったのか。    ――答えは。  灼熱の球体に向かって、漆黒の空間をゆっくりと移動し始めた。  それは徐々に加速し、最後は勢いよく燃え盛る太陽の中へ吸い込まれていった。  ジュウゥゥ……と、まるで極上の肉を焼いている時のような、人間が聞けば「美味しそう」と思うだろう音を立てながら。  否。もしかしたら、ちょっと焦げ臭かったかもしれない。  続いて、卵でいう殻の部分に当たる大地も、パリパリという小気味良い音を立てながら太陽の中へ消えていった。  そうして、地球が丸ごと、太陽に飲み込まれた後、 「ゲップ……」  と、妙な音が宇宙空間に響いたのだが……  それを聞いた者は誰もいなかった。 <了>
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