瞬き [ Story of Saiga ]

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彼女の笑っている顔を見つめながら かつて俺たちが友人同士だった時を振り返る。 意地っ張りで、頑固で。 今ほど素直に笑わなかった彼女の ふとした瞬間に見せる笑い顔を 瞬きでシャッターを切るように心にとどめながら いつか俺だけに その心を許してくれないかと 強く願っていた、あの日を思い出す。 「コウ。どうしたの、ボーッとして。人混みに疲れちゃった?」 思考を遠くへとばしていた俺に ジュリアが問いかける。 見上げる目線、触れ合う肩と腕。 気にしている。 気遣っている。 どうしたの、大丈夫?と 瞳を覗き込んでくる。 その表情もまた、 瞬きのシャッターに保存する。 「ン、大丈夫。腹減ったな。なんか食って帰ろうか」 「わー、いいね!なに食べようか?」 そんな、よくある日常の会話を交わして 俺たちはまた歩いていく。 『幸せとは 星が降る夜と眩しい朝が 繰り返すようなものじゃなく 大切な人に降りかかった雨に傘を差せることだ そしていつの間にか僕の方が守られてしまう事だ』 どこかで聞いた歌が、脳裏をよぎって 口ずさんでしまう俺の声を ジュリアが隣で聴いている。 俺の腕に掛かる彼女の腕は やさしく、しっかりと……離れないように絡む。 意地っ張りで、頑固で。 意外と強くて、泣き虫で。 俺の横で素直な気持ちを見せる彼女の今が なんとも言えない幸福感を感じさせる。 どこにいても今は二人、同じ時を笑い合う。 それがずっと続けば良いと、新しい年に願う。 ────『いつもそばにいつも君がいて欲しいんだ』 『目を開けても目を閉じても』。 【 瞬き  end. 】 ※作中における歌謡曲引用元の詳細 アーティスト back number アルバム『MAGIC』収録曲 『瞬き』より一部抜粋 (発売元 ユニバーサルシグマより 2017年12月20日リリース 作詞・作曲 清水依与吏)
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