肩越しの雨音

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「ねえ。ウッチーはいつ頃から、自分の気持ちを見極めようって思ったの?」 私の問いかけに ウッチーは熱々のラザニアを取り分ける手を止めて うーん…そうだなぁ…と言いながら考える。 そして、きっかけになったのは ストールを台無しにしてしまった夜だと言った。 ───その夜は二つの部署合同の プロジェクト打ち上げ兼忘年会だった。 が、ウッチーは途中で会席を離脱して 次の約束の店へと足を運ぶ。 約束の店、そこは ウッチーのバーテン時代からの知り合いである 真島オーナーが経営する店で 若き頃の彼を知る、旧知の仲間たちも 常連で出入りしていた。 その仲間の一人であるリオナはおネエで ウッチーを『リョウちん』と呼ぶ。 その日のリオナの連れもまた、同じ業界の人間で 今夜は彼に会うために 店へ足を運んだようだった。 もう一人の男は、ノンケ。 彼もまた一時期、ウッチーと同じ店で働いていた男で 現在はIT起業家兼バイカーでもある。 豊かな個性が集まる店へ 何も知らない小嶋さんが現れたことに ウッチーは驚いて、焦ったらしい。 しまった、小川だから面白がって呼んだのに。 マジかよ、一緒に飲むなんて事になったら こいつら、余計なことをしゃべるに決まってる。 それは……かなりマズイな。 そう思って、彼女を帰らせるために つれない態度を取ったくせに 彼女が他の客に絡まれないかと 背後のハイカウンターに座っている姿が 気になって仕方がなかったらしい。 急に態度がよそよそしくなったウッチーに おネエの二人は鍛え上げたオンナ(おネエ)の勘で 何かを察し、からかいを仕掛け始めた。 「ねえ。リョウちんはー、最近女とヤってるぅ?もし飢えてんならアタシが面倒見てあげよっか?」 「何いってんだよ、コイツがさぁ、んな訳ねーじゃん!なー、リョウ。そう言えば、あのバイカー女子とはどーなんだよ。まさか秋のツーリングでヤっちゃった?結構イイオンナだったじゃん」 「ばかねー、あれっくらいのオンナじゃ無理よ、リョウちんの○※△はたたないってばー!もっとエロくないと。ねえ、リョウちん」 「お前らね、好き勝手に言うなっつーの!エロくなくてもたつから、毎朝!!でもさーリオナ、俺はおネエ受けしないんじゃなかった?」 「ええーっ!ウケるウケるー!今日のリョウちん、尻とかめっちゃ美味しそうだもーん!食べたーい!あんあん言わせたーい!それに、前よりなんかセクシーさが増したっていうか?前よりニンゲンが1枚剥けたよね。どこでナニして剥いてきたのかなーって。アタシ思うんだけどー、また歳上のイイオンナでも仕留めたのかなって!どう?当たってるでしょ!」 「さあな。歳上は好きだけど。上に乗ってくれんなら俺は若い子でもウェルカムだよ」 盛大な下ネタトークを展開。 放送禁止用語が飛び交う会話。 気心知れた友人らとのバカ話に ウッチーは笑い合っていた。 (実際、もっとヒドイ会話でした。 小嶋さんは多分、 そのお行儀の悪い会話を聞いてしまって ショックを受けたんだと思う。) 「ありゃ……悪い予感がしゅるね」 私の一言にウッチーは苦笑する。 「だろ?俺も牽制のつもりが、悪ふざけが過ぎてさ…」 そして話は問題の場面へ。 小嶋さんは思いの外、酔いが回ったようで ふらふらとした足取りで化粧室へ立つ。 その無防備な様子を見たウッチーは いよいよ心配が抑えられず、過干渉になる。 そんな態度を真島オーナーに咎められた。 ……にも関わらず 柄にもなく熱くなってしまい、 彼女に対するあまりにも過保護な発言には オーナーだけではなく、仲間にも驚かれたようだ。 …さらに彼女に声を掛けた男二人組は 少々たちの悪い相手だった。 ……取り急ぎ追っ払った、というウッチーの様子に 私は、言いたいことが大渋滞を起こしたけれど とりあえず最後まで聞くことにした。
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