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ため息をひとつ、
大きく吐き出したウッチーは
「うわ……己に課した禁を自ら破る、腹を決めないとな。ってか社内恋愛……この俺が、ついに!!」
テーブルに片肘をつき、
手を額に押し当てるようにしながら
耳を赤くして、ぐわぁーっ!と唸って俯いた。
私はディタウーロンを飲みながら言う。
「うふふふ、いいじゃない?内野リョウの初体験。エッチだねぇ。でもさぁ、弁償だからって部下の女性にハイクラスのカシミヤストールは贈らないよね。とっても無粋なことを言うけどさ、いくらウッチーが稼いでるからって、三万円は本命女性にあげるレベルだよ?ふひひひ……無意識ってコワイねぇー?ねーウッチーコーチ!女のために金にモノ言わすなんて男の本気じゃーん、ふひひひ!」
「いや、いやいや!待てって!小嶋はそういう本命に贈るあれこれっつー、『機微』は分かんないと思う。それにまぁ、俺の本気とか?別に分かんなくていいよ、今は。」
「ほほーう。プレゼントの値段だけで男の気持ちをはからないところも良い、と。古風な女性だーい好きだもんねー、ウッチーは!ここからは男のプライドの見せ所だねっ、っていうか、年明けから攻めるの?『俺が動くからお前は掴まってろ』的な?ふひひひー!エローい!!」
「あのさぁ、ジュリちゃん…キャバクラにいる中年オヤジみたいな冷やかしを言うなよ……それにさ、そういうこと言うのは俺じゃなくて斉賀でしょ。エッチの時に斉賀の上に乗っけられて言われてんでしょ。夫婦になってもジュリちゃんにとって斉賀は『男』って訳か。他にはどんなコト言われてんの?斉賀夫妻のおすすめプレイは?後学のために教えてよー、ねーねー!!」
フフン、と笑って反撃を開始するウッチー。
ゲフンゲフン、とむせる私。
そうやって私をからかいながら
ウッチーはお代わりしたハイボールを飲んで
照れながら心模様を打ち明ける。
「まあ……あながち笑い事でもなくて、ジュリちゃんの言うようにさ。俺の無意識に小嶋の気持ちが少しずつ、しみてきたんだろうね。ずっと思ってくれていた女心に恥をかかせないように、俺からも本当の気持ちを見せるよ。それから、彼女に応えたい。だからいきなり距離をつめたり、手のひら返したみたいに言い寄らない。大事な部下でもあるし、振り回すのは嫌だからさ」
「……そっか。うん、それがいいと思う」
それは彼の真心なのだろう。
遊びでも気まぐれでもない、
本気の意思表示を見せるときの横顔は
とても素敵だと思った。
こんなふうに二人だけで飲んで
たくさん話をしたのは…久しぶりだ。
お酒もお料理も美味しくて
笑いながら二人で過ごす。
ふと気が付けば
時計は10時を回っていた。
「斉賀から連絡は?」
「ん?特にないよ。あっちもまだ飲んでるでしょ。でもまさか家から歩いてボチボチの場所で、私がウッチーと飲んでるとは思わないんじゃないかなぁ」
「あはは、そうだね!この店の事もヤツは知らないだろうしね?」
……ウッチーの笑顔を眺めつつ、私は
コウがずっと言っていた
『あいつは俺らが思うより大丈夫だよ』
言葉の理由がやっと分かった気がした。
ウッチーの事を誰よりも信じていた、
コウの気持ちも。
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