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瞬き [ Story of Saiga ]
ある二人の日。
年が明けてからの百貨店で
罰ゲームのような混雑を楽しみながら
ショッピングをしていた時だった。
「ねえねえ、コウのマフラーなんだけど。今年は新しいのに買い替えない?ホラ、お正月だし気分一新っていうか」
ジュリアが言い出した提案に
俺はそうだなぁ、と考える。
「ンー?今のが気に入ってるから今年もこのままでいいよ。だが、新調しようなんて急にどうした?」
俺の問いかけに
ジュリアはフフフン、と笑う。
「急にじゃないよ?ちょっとね、プレゼントしたくなったの。ほら、冬ってさ。コートとマフラーが一番最初に外気に触れるものでしょ。汚れやすいし、シーズン中に何度かクリーニングしないと。それに、身に付けてる方も毎日同じものだと飽きちゃわない?」
「別に…飽きないな、俺は。気に入ってるものがあればそれでいいから」
考えることもなく
俺が返事をする様子に
ジュリアは少々呆れている。
「もう、コウは相変わらず保守派だなぁ。」
「堅実でいいだろが。そういうジュリアは?冬物で欲しいものはないのか。気に入ったものがあれば揃えるといい。確かこの建物にあっただろう、お前の好きな店が。えーと、『LANVIN』だっけ。行ってみよう」
誘いかける俺に
ジュリアは急に慌てた様子になる。
「えっ!そんなLANVINなんて、いいよいいよ!」
「まあまあ。見るだけ見るだけ……な?」
その手を取って、俺は歩き出す。
ジュリアはえええーっと言いながら
戸惑うように付いてくる。
階を移動して、店に入る。
黒いスーツの女性店員が
俺たちに気が付いて
いらっしゃいませ、と声をかけてくる。
ジュリアは何だかソワソワした様子で
店内を見渡している。
それを見ていた店員は
何かに気が付いたような表情で
こちらへやって来て
「お客様、先日はお買い上げありがとうございました。お兄様のお相手様にも喜んでいただけましたら幸いです。そういえば例のラベンダー色。残り1点となっておりますよ」
笑顔で話し掛ける。
「あ、ああっ!ハイ、そうですね…うふふふ……」
ジュリアは詳細を濁すように
相槌を打つと、俺をチラッと見上げた。
「……ほお。お前、兄がいたのか。初耳だな。生き別れでもしてたのか?ン?」
耳元で、小声で。
俺は柔らかな尋問をかける。
「……へぶっ。そうね、この間再会して……びっくりでしゅよ……」
めちゃくちゃ視線が泳ぐジュリア。
「で?ここで『兄』に何を買わせたんだ。俺が思うにマフラーだ。しかも女物。贈り物をジュリアが見立てたんだろう。違うか」
「…………へぶぅ。」
両眉を上げて、俺を見つめる。
言い当てられると黙ってしまう癖。
ウン、ビンゴだな。
俺は確信しながら、更なる追い込みをかける。
「店員が覚えてるってことは、『兄』はかなり良い男なんだろう。偶然だなぁ。俺の相棒もまあまあのいい男だよ。だが最近妙にこそこそしてるんだ、何かあったのだろうか、心配だなぁ。マイワイフよ、なにか知らないか?無ければ俺が、あの店員さんに聞こうか」
……ふっふっふ。
さあ、吐け。
真実を吐くんだ。
「うっ!出たね、サイボーグお見通し機能!ううう……コウは私に監視カメラでも付けてるの……そうよ、生き別れたお兄はウッチーよっ。ウッチーの買い物をお手伝いしたの。」
あっさりと自白を始める。
嘘を付くのは、相変わらず下手だ。
マフラーの話が出た時点で
実は心当たりがあったんだよ、俺は。
そう思いながら
口止めされているであろう密談を
俺は暴いていくことになった。
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