手を差し伸べて欲しかった

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俺と兄さんが暮らしているのは兄さんの仕事場の寮なので、仕事場に行くのにそう時間はかからない。 部屋を出て廊下をまっすぐ進み曲がり角をいくつか曲がればすぐにたどり着く。 しかし、兄さんがどの部屋で働いているのかは分からない。 人に聞くわけにもいかないので兄さんの声が聞こえないか耳をすませて歩いた。 不思議と、どこの部屋からも男や女の声が小さく聞こえてくる。 まだ精神的にも幼かった俺にとってその声は、どれも艶かしかったがそれと同時に不気味でもあった。 「んっ」 1番奥の部屋から兄さんの声がした。 他の声と同じような艶めかしく不気味な声だったがそれでも兄さんの優しい、綺麗な声だ。
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