手を差し伸べて欲しかった

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美しかった着物も、丁寧に結った髪も乱れている。 優しい兄さんの表情は快楽と羞恥に歪んで、俺の知らない色気を漂わせている。 「あっ…んぁっ」 ここに来るまでに聞こえたどんな声よりも艶めかしく、俺をもっとも不快にさせた。 こんなの、兄さんじゃない。 そう言って目を逸らしたかったが、何故か目を離せないでいた。 どのくらい経ったか、どうやら行為は終わったらしい。 男は兄さんと唇を重ねてから着物を整え始めた。 見つからないうちに帰らなければとごちゃごちゃした頭の片隅で思い、来た道を同じように引き返す。 しかし、行きのような浮き浮きした気分はもうなくなっていた。
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