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第二章 噂の真相 その2
「・・・・・・ひどい。」
アキヒトは思わず口に出した。
男のクズである。怒りを隠しきれなかった。
「みんながみんな、アッキーみたいな反応をしてくれるわけやないんよ。
僕が出たビデオの事で、ひどい噂を流された事もある。」
うつむいてハルカさんは告げた。
「あいつは男好きやから、誰とでも寝る淫乱やってな。」
「!?」
アキヒトは思わず椅子から立ち上がり、
我に返って座りなおした。
「ハルカさんは、そんな人じゃない。」
「せや、俺も知ってる。」
亀井店長が頷いた。
「せやけど馬鹿は真に受けるんや。店の雰囲気が悪くなって
何人かクビにした事もあったわ。」
「おかげで亀井先生まで
ひどい噂流されるようになったやんか。」
ハルカさんがそう言った時、アキヒトはハッとした。
「もしかして、“入店した男はみんな先生に食われる”って噂はその時に?」
彼がそう口にした瞬間、皆が吹き出した。
「それやそれ!アッキー知ってたんか?」
「九州の子が言ってたくらいですからね、かなり広まってたんじゃないかと。」
「よくうちの店に来たな、自分。」
亀井先生が笑いつつ感心しながら言う。
「だって、給料が良かったし、亀井先生はカッコいいから
万一そうなっても人生経験かと思って。それに噂は噂だと思ってたし。」
そう言うなり、ハルカさんも亀井先生も
そして佐藤さんまで笑い転げていた。
「もう、笑わないでくださいよ。
実はビクビクしてたんですから。
うち、片親でシングルマザーなんで、
実家に仕送りする為にこの店に入ったんです。」
見かけによらないとよく言われるが、
彼自身、高校時代から家計を助ける為のアルバイトをしていたし
母親の代わりに作っていた弁当のおかげで、料理の腕も上達した。
3年前に父親が突然死したあと、
パートを掛け持ちして自分たち兄弟を育ててくれた母親に
仕送りをしたくてこの店に入ったのだ。
少ないながらも毎月送金できているのは
この店の高い給料のおかげだった。
それはアキヒトの誇りでもある。
だからこそ、人の稼いだお金を
あんな簡単にせびりに来る男が許せないのだ。
「ハルカさんがあいつに渡した金で、何が出来るのか
身に沁みて知っているんです。それだけはおれ、自信あります。」
アキヒトが言うと、亀井店長が微笑んだ。
「アッキーはええオトコやな、ハルカ。
なかなか見る目あるやないか。」
亀井店長にそう言われ、アキヒトは鼻が高かった。
「僕な、アッキーに嫌われたくなかったんや。」
ハルカさんがボソッと言った。
「AVに出てたり、実家がヤクザやったり。
しかもオトコやし。だからなかなか言えんかってん。」
しょんぼりした顔だった。
情けない顔をしたハルカさんを見ると、胸がぎゅっとなる。
「何言ってるんですか!そりゃあショックだし、
小さなこととは言えないけど、
そんな事で俺のスケベ心は消えませんよ!」
「・・・・・・。それ、いいことなんやろうか?」
ハルカさんが笑いながら言う。
「いいことですよ。エロは地球を救うんです!」
そう言うアキヒトをじっと見つめたあと、
ハルカさんは何かを決意したような顔をした。
「僕、あいつと切れる。どんな手を使っても。」
「お、ついに決意したか。どうする?桜井組の力を借りるか?」
「そうですね。」
亀井先生のセリフにハルカさんはニヤリと笑う。
「組の力は借りひんけど、組の威力は借りる事にします。」
「ほほう。」
亀井さんが何か感づいた顔で目を細める。
顔に『面白い事になりそうだ』と書いてあった。
「アッキー手伝ってくれるか?」
ハルカさんのたっての頼みである。
アキヒトはもちろん二つ返事で引き受ける事にした。
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