第三章 桜井邸にて

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第三章 桜井邸にて

「で、なんで威力借りるだけなのに 俺たちここにいるんですか?」 桜井組の広い屋敷の中、 離れにある居間でアキヒトとハルカは待たされていた。 “東京ドーム何個分かよ?” 実際に東京ドームには行ったことないけど、 よく聞くたとえを頭に浮かべながら、 広い敷地の中に建っている建物の全容に想いを馳せていた。 離れは平屋で日本庭園を一望できる 和風のしつらえである。 季節の樹木が絶妙なバランスで植えられており 初夏の今は、緑のグラデーションがとても美しい庭だった。 「一応、筋は通しておかないとあかんからな。」 「・・・・・・そうですか。それにしても綺麗なお家ですね。」 「古いだけや。」 小さな声でひそひそと話していると、 「失礼します。」 ハルカさんそっくりの和服美女が現れた。 抜けるような白い肌、豊かな胸元。 アキヒトは思わずごくりと生唾を呑む。 とんでもなくイイ女だ。 「久しぶり、ハルちゃん。」 「久しぶり、なゆか。」 若干ハルカさんのほうが低いくらいで、とても良く似た声だ。 「お姉さんですね、はじめまして。」 アキヒトが慌てて挨拶をした。 「小島彰人といいます。」 勢いよく挨拶したあとでなゆかさんのほうを見る。 と、彼女は目を見開いた。 「千さんに、似てる。」 アキヒトを見るなり、そう呟く。 千さん。それはハルカさんの初恋の人で なゆかさんとハルカさんのボディガードだったと聞いている。 自分に似た男の存在は、アキヒトをとても複雑な気持ちにさせていた。 “早く会ってみたい。” 「ごめんな、千さん寄り合いで遅くなるらしいわ。 今日は二人とも泊まっていきや。」 明日は店休日の月曜で、休みである。 研修も入っていなかった。 アキヒトはハルカと目を合わせ、そのあと二人同時に頷いた。
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