第一章 待ち伏せ

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第一章 待ち伏せ

ハルカは宇津井を呼び出すよう、松井帆菜に指示を出したが それ以外は何も話さず、 ただ黙って部屋の中央にあるミニテーブルの端に腰掛けていた。 アキヒトは無言で、玄関の脇に立っている。 扉は閉めたが、鍵はかけていなかった。 「あの・・・・・・どういった御用なんですか?」 沈黙に耐え切れない帆菜が聞いてくる。 ハルカは彼女ににっこりと笑いかけた。 恐らく女子から見ても魅力的な笑顔だろう。 もしかしたらちょっと野暮ったいルックスの 同年代の帆菜からすれば 嫉妬の対象でもあるのかもしれないが それでも感じのいい笑顔には変わりなかった。 「宇津井さんにお願いがあって来たんやけど、 どこに行ったらお会いできるか分からなくて。 用が済んだら帰るからごめんな。」 声のトーンと内容だけ聞いていたら、 まるで友人との待ち合わせか何かのようである。 だがアキヒトの存在が、妙な緊張感を生み出していた。 「・・・・・・はあ。」 納得はしていない、と言った表情だが これ以上言っても無駄だと悟ったのか 彼女は相槌を打ち、そして黙り込んだ。 「宇津井さんとは昔、お付き合いしてたの。」 ハルカは彼女が知りたそうな情報を小出しにすることにした。 「あなたは今の彼女さん?」 ハルカは普段そんな言葉遣いはしない。 アキヒトが視界の隅で笑いをこらえているのが分かったが、 無視した。 「あの、私ぃ、宇津井さんとはーそういうんやないんですぅ。」 鼻にかかったような甘ったるい声で帆菜が言う。 オドオドとした中に、媚が感じられた。 自分はあんな男とは関係ない、という事を言外に匂わせている。 だが、松井帆菜は宇津井の連絡先を知っているし、 呼んだらすぐに飛んでくるくらいの関係性なのだ。 “かわいそうに。” ハルカはちょっと宇津井に同情した。 それにしても、ずいぶんと人をイラッとさせる口調である。 “この女、結構なタマかもしれんな。” 表情には出さないが、そんな事を考えながら ハルカはじきにやってくるであろう宇津井を待った。
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