第二章 宇津井登場

1/1
前へ
/11ページ
次へ

第二章 宇津井登場

宇津井はその三十分後にやってきた。 「帆菜ちゃん?」 と言いながら、玄関の扉が開く。 すかさずアキヒトが宇津井の背中を蹴り、部屋の中へ押し込むと 玄関の鍵をかけて、その場に仁王立ちする。 アキヒトのジャケットについている桜井組の幹部バッジを見て 宇津井の顔色が変わった。 「あんた……もしかして。」 と言ったあと、宇津井は部屋の中を見回す。 ミニテーブルのそばに座っているハルカと目が合った。 「ハルカ!」 部屋の中央に座っているハルカが、 宇津井に向かってにこやかに手を振る。 ハルカと玄関先で仁王立ちしているアキヒトを見比べて、 宇津井の顔が蒼白になった。 「おまえ、実家とは切れたって言うてたやないか。 嘘やったんか!?」 「切れたで。でもこういう時は遠慮なく助けてもらう事にした。 いつまでたってもうるさいハエにたかられたくないしな。」 物騒な言葉とは裏腹に、 天使のような清らかな笑顔を 宇津井に向けながらハルカは言った。 「さ、耳揃えて貸した金を返してもらおうやないか?」 地獄の底から響くような低い声でハルカが凄むと、 宇津井は何も言えずにうつむく。 「なあ、お前が僕にした事をすべて帆菜ちゃんに話してもええんか?」 半笑いで言う顔は、まるで夜叉のようだ。 “ああ、この人が敵でなくて良かった。” アキヒトは心の底から思った。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加