第四章 結果報告

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第四章 結果報告

その夜、月膳で亀井先生と待ち合わせをした二人は 事の顛末を報告していた。 (と言っても説明したのはほとんどハルカさんだったが) 「アッキー、その服どないしたんか? まるでチンピラやないか。」 亀井先生に笑われ、アキヒトもつられて笑う。 「ヤクザの若頭役ですからね。」 「見える、見える。」 褒められてるかは微妙な線だったが、 今日のところは見えていないと非常に困るので、 アキヒトは安堵していた。 「結局宇津井の本命だった松井帆菜に 他の女から搾り取った金が流れとったんですよ。」 と、ハルカさんが説明した。 「宇津井はあの女と一緒になりたい為に、金を貢いでいた。」 「でも彼女、そんな金持ちには見えなかったですけどね。」 狭くて最低限の家具しかないマンションの一室を思い出しながら アキヒトが不思議そうに言うのを聞いて、ハルカさんが冷笑した。 「そりゃそうや。あの子も他に貢いでたからな。」 と言って、一枚の写真を見せる。 アイドルのような、はっきりした顔立ちの男が写っていた。 髪型からして堅気の男のようには見えない。 水商売の臭いがした。 「翔喜といって、北新地にあるホストクラブ優のナンバー1や。」 ハルカさんがそう説明すると、 「あ、この子知ってる。」 と亀井店長が言った。 「せや、僕の客やもん。毎回毎回来るたびに ラインのID聞いてくるウザいオトコや。」 ハルカさんが嫌そうに言う。 「基本的にオンナをバカにしたところがあるから、 生理的に受け付けへんタイプなんやけど、 まさかこんなところで繋がっているとはね。」 翔喜というホストから、帆菜の話を聞いていたハルカは 宇津井の女のリストに彼女の名を発見したことで、 ループが繋がったのだ。 しかし失礼な言い方だが、あか抜けないOLの帆菜が ホストクラブにハマるのはまだ分かるが どういうわけで、あんな筋者みたいな男と知り合ったのだろう? 不思議に思っていると、ハルカさんが一枚の書類を持ってきた。 「松井帆菜の借金の明細や。」 細かい明細書だった。 「色んなところから借りてますね。」 有名どころから知らない金融会社まで、様々な会社がリストに載っていた。 「へえ。この金で、翔喜君はナンバー1になったと。」 いつの間にか話に参加してきていた佐藤さんが、 興味津々と言った表情で言う。 「このホスト君に気に入られているハルカさんが、 食物連鎖で言ったら一番頂点なんじゃないですか?」 そう言われ、ハルカさんが珍しく少し嫌そうな表情をした。 「僕も絞られてんねんで。」 そう、ハルカさんはホストには何も貢がせていない。 「ちなみにこの子は結構ヤバいところからも借りてて、 何年か前にそこの取立て屋だった宇津井が 松井帆菜の自宅に押しかけていったのが、出会いやったようや。」 なるほど、とアキヒトは納得した。 「あんな普通の、一見純情そうな女は初めてやったんやろうな。 だからこそ宇津井は松井帆菜にころっと騙された。という訳や。 遊んでる男ほど、一見家庭的に見える女に弱いんやな。」 一見、と言うところをハルカさんは何度も強調した。 よほど腹に据えかねたと見える。 「へえ。」 みんなは感心して聞いていた。 偏見かもしれないが亀井店長も佐藤さんも、 女の人とは付き合ったことが無いから分からないだろうけど 何人もの女の子と付き合ってきたアキヒトには その話は良く理解できた。 デザートみたいに飾り立てた女より、 白ご飯みたいな女に、落ち着く男の気持ちは良く分かる。 だが松井帆菜が実際にそうであったかどうかは、知らないし 実際デザートのような華やかな女に憧れていたからこそ、 借金を重ねたのだと思うけれど。 「それにしても翔喜のヤツ、この件には関係ないけどムカつくな。」 ハルカさんがプンプンと怒っている。 同じ怒った顔だが、先ほどの夜叉の表情を見たあとでは 普通に可愛い。 アキヒトはクスッと笑った。
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