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第七章 ホストクラブ優
「いらっしゃいませ。」
イケメンも、そうでない男も、一列に並んで迎え入れてくれる。
アキヒトは店内をものめずらしげに眺めていた。
<ホストクラブ優>は北新地でも古い店である。
落ち着いた内装と、にぎやかな照明が対照的だった。
「うそ!ハルカちゃん?」
いきなりテンション高く現れたのが
例の写真の男、翔喜だ。
羽でも生えたかのように、飛んできた。
確かに、悔しいけれど整った顔立ちのイイ男だった。
店のポスターもカッコ良く撮れているが、本人も負けていない。
「予約の名前見て、びっくりしててん。
同姓同名の子かと思ったら本人やんか、めちゃ嬉しいわ。」
“顔が近い!ハルカさんの手を気やすく握るな!!”
ムッとしながらアキヒトは二人のやり取りを見ていた。
救いはハルカさんのスマイルが、引きつっていることだ。
「この子?翔喜の担当の美容師さん。めちゃ綺麗やん。」
他のホスト達もハルカさんを一目見ようと寄ってきた。
店でも話題にしているらしい。
「俺も指名したい!」
そう言いながら、ちゃっかりハルカさんに名刺を渡そうと群がる
若いホスト達を、翔喜が追いやり
ようやくアキヒトのほうに視線が向いた。
少し向こうの顔色が変わったのを見て、内心優越感を感じていた。
「この子は?」
翔喜がアキヒトをアゴで指す。
それにしてもナンバー1か何だか知らないが、態度が悪い。
こっちは一応客だぞと思う。
「うちに入った新入り君。アッキーって言うねん、よろしくな。
男ぶりを上げて欲しくてここに連れて来たんや。
うちのお気に入りやから、お手柔らかに。」
「ふうん。」
言葉の温度がかなり下がったのを感じる。
<お気に入り>という言葉に反応したのだろう。
「まあ、若いし磨けば光るかもね。」と冷たく言われた。
“ずいぶん上から来るじゃねーか。”
と思いつつ、
「よろしくお願いします。」と頭を下げる。
ハルカさんの顔をツブすわけにはいかない。
二人は奥の良さそうな席に案内され、お茶割りを作ってもらった。
まさかのナンバー1からお茶割りを渡され、アキヒトはビビる。
「それにしてもハルカちゃん、やっと来てくれたなあ。
ラインも教えてくれへんし、嫌われてるかと思っちゃった。」
“嫌われてるよ!”
アキヒトはそう思いながら、黙って二人の話を聞いている。
「こういうところ全然来た事ないから怖くて。
知ってる人のお店なら、安心やもんねー。」
“嘘つけ。借金取りであんなすごんでた人が、
ホストクラブごときに怖気づくわけなかろうもん。“
突っ込みを入れつつ翔喜を見ると、鼻の下が伸びていた。
イケメンが台無しである。
「怖くなんかないよ。ハルカちゃん、いやハルカ姫は
俺が守ったるで!」
両手を握って迫り来る翔喜が近すぎて
ハルカさんがのけぞっている。
すごい腹筋と背筋だ。
「あ、ありがと。」
ハルカさんの笑顔がまたもや引きつっていた。
本当にこれでナンバー1が務まるのだろうか?
あまりにも周りが見えていない態度に呆れてしまう。
“だいたいハルカさんは俺が守るから、大丈夫だっつーの!”
そんな事を思いながらも、アキヒトは気が気ではなかった。
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